2019年08月15日

28,12月20日 日曜日 15時48分 県警本部内



「あぁトシさんか。捜査の方は進んでるか。あのな、未明の遺体の身元が分かった。メモとれるか。」
「はい大丈夫です。控えられます。」
「ひとりは穴山和也23才。住所は銚子。もうひとりは井上昌夫これまた23才。住所は土清水だ。」
「穴山と井上…。」

古田の反応にかなりの間があった。気になった本部長の朝倉はそれについて問いかけた。

「どうした、トシさん。」
「…本部長。」
「何だ。」
「申し訳ございません。」
「は?」
「私、本部長に報告しておりませんでした。」
「トシさん。俺はあんたの言ってることがよく分からんが。」
「その名前、知っています。」
「あぁ、もう知っていたか。」
「いえ、違います。その男らの名前は三年前から知っています。」

刑事部の一角に設けられた来客用のスペースにあるソファに腰をかけ、そこに配された固定電話から電話をしていた朝倉は、自分と向かい合って座っている片倉の方を見て動きを止めた。

「なんだと。」

片倉は朝倉の表情を見て何か重要な情報が電話の向こう側からもたらされそうなのを察し、とっさに電話のスピーカボタンを押した。

「その二人はレイプ犯です。三年前、当時二課の課長だった一色の交際相手を強姦したと思われる男たちです。」

朝倉と片倉は驚きの表情でお互いの顔を見合った。

「そんな話、こっちまで上がっていないぞ…。」
「本部長、この件は事件になっておらんのです。」
「まさか…親告されていないからか…。」
「そうです。」
「くそっ!!」

喜怒哀楽をあまり表に出さない朝倉だったが、この時は感情的だった。目の前のテーブルを力一杯叩いた。

「本部長、落ち着いてください。私が代わりに電話に出ます。」

感情的になっている朝倉を落ち着かせるために、片倉は彼から受話器を奪った。

「トシさん、おれだ。」
「片倉。」
「一部始終は聞かせてらった。何でそんな大事なこと黙っとったんや。」
「すまん、部長命令や。」
「そうか…」

そう言うと片倉はそのまま腕を組んで、朝倉の方を見た。彼はすぐに冷静さを取り戻したのか、こちらの方を見て続けろと合図した。

「トシさんだけか、その事知っとる奴は。」
「多分な、後は当事者と部長しか知らんやろ。」
「なんでトシさんには部長は話したんや。」
「さあ、何でやろうな。ただ当時、部長が鬼捜査しとる中で精神的に参っとったのは、ワシは端から見ても感じ取れたけどな。ほやから、こっちから声をかけたんや、部長に。そしたら話をしたいことがあるって打ち明けられた。で、被害者が告訴するつもりがないようやから、自分で独自に捜査して犯人はある程度確定しとるって言っとった。できることなら、こいつらを法の下で裁いて欲しいと切に訴えとった。でも、被害者本人のことを考えるとどうにもできんと。なんとかこの事件のオトシマエをつけたいと言っとった。」
「で、殺してしまったってとこか。」

片倉がそう言うと、その場に沈黙が流れた。その沈黙を破ったのは古田だった。

「現状の物証とか因果関係を考えると、そう考えるのが一番説明がつく。ただ…。」
「ただ?」
「いや、なんでもない。」

二人のやり取りをその場で聞いていた朝倉は、片倉に電話をかわるよう指示した。

「トシさん。幸い松永はその事は知らないようだ。どうだ、片倉とトシさんで捜査を続けてくれないか。」
「本部長。」

突然の朝倉の提案に、意表をつかれた。

「片倉も松永には相当頭が来ているみたいだ。自分の家のことは自分たちでオトシマエつけた方がすっきりするじゃないか。」
「いいですが…。」
「よし、決まりだ。」

そう言うと朝倉は片倉の方を見た。

「わ、わかりました。」

片倉は戸惑いながらも命令に従った。

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2019年08月08日

27,12月20日 日曜日 15時00分 金沢北高等学校



金沢市北部の熨子山麓に位置する金沢北高は、文武両道を校訓とした厳格な校風の私立高校である。
どこの学校にもありそうな校訓であるが、ここはを堅実に実践し、その成果を挙げていた。
日本で最も偏差値が高いと言われる東京第一大学に、毎年卒業生を複数名送り込み、片やインターハイに出場する程の実力をもった部活動も数多く存在する。
標語だけが一人歩きするような学校ではなかった。

金沢北高では挨拶、身なりなどの規律面で校則に反したことがあれば、厳しく処分される。
また、先生や先輩の指示は絶対であり、それに背いた者には容赦ない制裁が科せられることとなっている。
このような昔ながらの軍隊的な校風にも関わらず、結果として実績を出しているので、人々はその校風を公には批判しなかった。
だが、近年ゆとり教育なるものが国の施策として採用されてから、保守一本の北高の校風を嫌ってか、受験生やその親たちがこの高校を敬遠するようになってきており、その影響で北高は厳しい経営状況にあった。

今日は日曜日だというのに、校舎に活気があった。
職員のものと思われる自動車も複数止まっている。きっと生徒の部活を監督するために休日でも出勤しているのだろう。

「すいません。誰かおられますか。」

正面玄関につけられたインターホンに向かって、古田はぼそぼそと声を発した。

「警察です。ちょっとお時間いただけませんか。どなたでも結構です。」

しばらくして「どうぞ。」と言う声が聞こえ、正面玄関の鍵が自動で開けられた。

玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて古田は職員室がある二階に向かった。
途中、数々のトロフィーや優勝旗、賞状などが飾ってあった。野球部、陸上部、吹奏楽部、サッカー部、その他様々な部活動の活躍を証明するもので、その多さに古田は圧倒された。
彼はふと足を止め、その中に剣道部のものがないか確認した。

「あった。」

古田は一つのトロフィーに目をとめた。

「第32回石川県高等学校剣道大会 団体戦 準優勝 金沢北高」

そう呟くと手帳にメモをした。

「こんにちは。」

元気のいい声をかけられて古田はその方向を見た。そこには生徒と思われる男子が歩いていた。

「あ、どうも。」

勉強や部活動の実績を挙げる以前に、その人間性を高めるために軍隊ばりの指導をしていることが、この生徒の挨拶を聞いた瞬間感じ取れた。
と同時に、警察という規律正しい仕事をしている自分が、この生徒と同じように挨拶ひとつろくにできないことをふがいないと感じた。

―社会に出るとこんなもんか…。

古田は短く刈り込まれた頭をぽりぽりと掻いて、背中を丸めて二階にある職員室へと向かった。
職員室の前にはジャージ姿の教員らしき男が立って、古田を待っていた。その男は古田を見てお辞儀をし、応接室へと案内した。

「今日は生憎日曜日なため教頭はいません。私でよければ話を伺います。」

すると男は名刺を古田に渡した。古田はその名刺を見て、自分がこの男に誤解を与えていることに気がついた。名刺には生徒指導担当の肩書きが確認された。

「ああ、すんません。今日はおたくの生徒さんの悪さの話じゃないんですよ。」

対応の教員は意外そうに古田を見た。

「申し遅れました。私、こういうものです。」

そう言うと古田は胸元から名刺を取り出して教員に渡した。教員は両手でそれを受け取り、声を出して読んだ。

「県警本部、捜査二課課長補佐…。」
「ええ、ちょっとおたくの卒業生について聞きたいことがありましてね。」

中年の教員は困惑した表情で古田を見ている。

「あなたもご存知やと思いますけど、この近くの熨子山で事件があったでしょう。」
「ええ。」
「今、テレビとかで言われとる容疑者に見覚えありませんかね。」
「容疑者ですか?」
「はい。容疑者は一色貴紀。ここ金沢北高の卒業生です。」
「一色…。」
「はい。その一色について詳しく知ってらっしゃる方がいたら話をしたいんですよ。」

教員はしばらく黙り、ゆっくりと口を開いて言葉を発した。

「私がよく知っています。」

古田は前屈みになりながら、教員の目を上目遣いで見つめた。

「私は以前、一色が属していた剣道部の監督をしていました。ですから、私がこの学校では一番知っていると思います。」
「タイミングがいいですな。では早速ですがお聞かせ願いたい。」
「どうぞ。」
「一色は高校時代どういう人物でしたか。」
「当時から品行方正な男でした。勉強はあなたがご存知の通りできる男です。」
「部活動については。」
「彼が部長だった時に、県大会で準優勝の成績を収めました。当校において剣道部でここまでの結果を出したのは彼の代を除いて、後にも先にもありません。」
「特別な練習とかでもしたんですか。」
「いや、あ…でも、やったといえば、やったのかもしれませんね。」
「どんな。」
「当校は熨子山をランニングコースとしてよく利用しとるんですが、彼の代ではそれの応用といってはなんですが、熨子山全体を利用した鬼ごっこをしとりました。」
「鬼ごっこ?」

古田はメモの手を止めた。

「ええ、ただやみくもに走っているだけですと辛いもんです。そこでゲーム性のあるランニングにしたんです。といってもこれは結構辛いんです。山全体をつかいますから。」
「そりゃそうでしょうな。逃げる方も隠れるところがいっぱいあるし、鬼にしても待ち伏せできるところがわんさかある。しかもフィールドは広大と来たもんだ。」
「ええ。そりゃ始めは鬼は誰も捕まえることができませんでしたが、慣れとでもいうのでしょうか、動物的な感が研ぎすまされるのか、何となく気配を感じるようになるんですよ。意外なことに2週間もしたら、日没までには決着がつくようになっていました。」
「非常にユニークなトレーニングですな。そりゃ基礎体力がつくはずだ。ついでに勝負勘も身に付く。そして同時に熨子山の地理に明るくなる。」
「そうですね。いわゆる舗装された一般道を使用していると、見つかりやすいので自然と険しい道なき道を生徒は選択します。」
「今でもそのトレーニングはされてらっしゃるのですか。」
「いや、それは彼の一代で終了しました。同じ教員の間からけが人が出てもおかしくないと指摘されたからです。確かに今思えば危険なことを容認していたなぁって思います。でも、基礎体力や動物的な勘を養うには手っ取り早い方法だったような気もします。」

古田は教員の話す言葉の一言一句も逃さないようにメモをとった。

「で、刑事さん。こんな部活の話と今回の事件、何の関係があるんですか。」
「いや、まあ気にせんで下さい。大変参考になっておりますよ。」
「そうですか。」

教員は何やら腑に落ちない表情だった。

「刑事さん。」
「なんでしょうか。」
「私は正直複雑な気持ちなんですよ。自分の教え子が疑われているんですから。」
「お気持ちはよく分かります。それは私たち警察にとっても同じことです。一色は私の上司にあたりますから。とにかく事件の真相解明と容疑者の逮捕。これが先決ですので、ぜひともご協力ください。」
「わかりました。」

教員ははっきりしない表情で古田の意図を汲んだ。

「では、当時の剣道部の部員を教えてください。あぁ熨子山で鬼ごっこしとった部員だけで結構です。」
「自主的にやっとったトレーニングでしたんで人数少ないですよ。ええっと、確か12名だったかな。」
「名前は。」
「部長の一色。他には佐竹、村上、赤松、鍋島、千葉、沼田、安東、木戸、加藤だったと思います。」

さすがに聞き取りだけで人の名前を性格にメモすることはできないので、古田は教員にそのメンバーをフルネームで紙に書くよう依頼した。
すると、教員は職員室の方へ一旦戻り、卒業アルバムをもって応接室へと戻ってきた。
教員はひとりひとり名前と顔写真とを照らし合わせながら、古田に説明した。

「この中で、一色と特に深い繋がりがあったのは誰ですか。」
「そうですね、やっぱりレギュラーメンバーの佐竹と村上と赤松、そして鍋島でしょうかね。」
「今現在この人たちが、どこで何をしているか分かりますか。」
「そうですね…。みんな大学に進学していますから、その先はよく分かりません。鍋島だけが高卒で自衛隊に入っていますが、連絡も取っていないのでわかりません。」

古田は、メモ帳の鍋島の名前を円で囲んだ。

「どうして、鍋島さんは自衛隊に?」
「彼は飛び抜けて強かったんですよ。剣道には団体戦と個人戦とがあるでしょ。」
「はい。」
「一色の代は団体戦が県大で準優勝。個人戦では鍋島が県大優勝。インターハイ優勝の成績を収めています。」
「ほう、それはすごい。」

古田は素直に感心した。

「で、大学に行くのは遠回りだということで、そのスキルを活かすために自衛隊に入隊したんです。あの代の連中が結果を残せたのは、鍋島の強さに引っ張られたところもあるんじゃないでしょうかね。」
「そんなに強いなら当県警の戦力として欲しかったですね。」
「いや、彼は昔から軍事の方面に個人的に興味を持っていたようでしたから、警察は受けなかったのでしょう。」
「そうですか分かりました。」

そう言うと古田は、佐竹、村上、赤松、鍋島の当時の住所を控えて職員室を後にした。
玄関まで足を進めていると、吹奏楽部の練習だろうか、ホルンやトランペットの音が聞こえていた。何やら懐かしい感覚が古田を包んだ。

そんな矢先、彼の携帯電話が鳴った。
古田は足を止めた。

「はい、もしもし…。ええ…。はい…。えっガイシャの身元が分かったんですか。はい大丈夫です。控えられます。」

古田は携帯電話を左耳と肩で挟んで、器用にメモ帳を取り出してペンを握った。しかし、彼の手はそのまま止まった。

「穴山と井上…。」

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2019年07月28日

26,12月20日 日曜日 15時00分 七尾市街地



能登半島は海岸線が複雑に入り組んでおり、その景観の良さから観光スポットとして人気がある。
石川県外の方は、能登と言えば荒々しい男の海の風景を連想されるだろうが、それは外浦と言われる日本海側の海の事であり、内浦と言われる富山湾側の海はそれと反して穏やかで女性的な表情を持っている。

七尾市は内浦に面している。
能登島という島をもつ能登半島の中央部の都市であり、能登地区の中心都市としての性格を持つ。
地形的にも農林水産業が主たる産業となっており、そこから派生する二次産品や加工品が主な産業となっている。
また和倉温泉を中心に温泉場が多いのも特徴である。

この七尾市の市街地にあるアパートに男は住んでいた。

間取りは1DKと狭い。
部屋に敷かれた畳の色は最近張り替えたのか、青々としたい草の色そのもので、仄かに香っていた。
男はその部屋の中心にあぐらをかいて座り、背筋を伸ばし、肩の力を抜いて、両手のひらを上に向け重ね合わせ、その親指を触れるか触れないかのぎりぎりの線で静止させていた。

まるで禅僧のようである。

彼は部屋に唯一ある窓と向かい合って、目を瞑り、その呼吸を整えていた。

部屋の中には何も無い。テレビもラジオも冷蔵庫も電子レンジも。あるのは男の身一つと毛布だけだった。

インターホンが鳴った。
先ほどまで隣の部屋で何かの物音がしようが、外で犬が鳴こうが微動だにしなかった彼だったが、ここではじめて目を開いた。
そしてすっくと立ち上がり、玄関の方へ移動し、覗き窓からドアの向こう側を確認する。

そこにはコートを身に纏った訪問者の姿が見えた。
男はドアのチェーンを外し鍵を開け、言葉も発さずドアを開けた。
訪問者も彼に声をかける様子は無い。
彼はドアを閉め、手に持っていたコンビニエンスストアのレジ袋を男に手渡した。
中身が食料である事を確認し、先ほど瞑想していた部屋へ戻るため、男は訪問者に背を向けた。
訪問者は外してあった鍵を再びかけ、男に続いて部屋の中に入った。

畳に座ると男は差し入れられたパンと牛乳を貪るように食べ始めた。
その様子を訪問者は黙って見ている。
ほとんど噛む事無く、口に入れたパンを牛乳で流し込み、男は僅か3分で完食した。
相当腹が減っていたのだろうか。

食事を終えると彼の表情に変化が表れた。
目が虚ろになって来た。
何度か自分の目を擦るが、目は虚ろのまま。
自分を襲う虚脱感に抵抗して男はなんとか言葉を発した。

「計ったな…。」

そう言うと彼はそのまま横になり、眠りについてしまった。

男の様子を見届けた訪問者は部屋の隅にある毛布を幾重にも折りたたみ、彼の顔に被せた。
そして胸元から一丁の拳銃を取り出して毛布に銃口を密着させ、引き金に指をかけた。

消音化された発砲音が部屋の中に僅かに響いた。

男の頭から血液がしみ出し、毛布が徐々に赤く染まってくる。
青々とした真新しい畳にもその赤い血液が染み始めてきていた。

訪問者はキッチンのガスコンロから、スチール製の五徳を外した。
素振りしながら彼は倒れている男の前に再度立った。
そして毛布を外し、そこにある変わり果てた男の顔めがけて五徳を振り下ろした。

訪問者はこれを執拗に繰り返した。
腕を振り下ろすたびに、部屋の中に血が飛び散った。

顔面を破壊した彼は部屋を見渡した。
あらゆる箇所が血で染まっている。

押し入れに目を止めた訪問者はそれを開いた。
そこには革製の旅行カバンがひとつ入っていた。
彼はそのカバンの中を物色した。
中には衣類ばかりが入っていたが、それのサイドポケットの中を調べると、現金が入った封筒を見つけた。
封筒には銀行の名前が印刷されている。
訪問者はそれを自分の懐に納め、何くわぬ顔をしてその場から立ち去った。

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2019年07月25日

24,12月20日 日曜日 14時05分 佐竹宅



アサフスで購入した花が入った箱を手にして自宅に帰ってきた佐竹は、それをダイニングテーブルの上に置いた。
花が入った箱を丁寧に開封すると子豚のかたちの鉢に三種類の花が奇麗に収まっていた。

佐竹は花に関する知識は持ち合わせていない。だから、それらの花がどういった種類のものなのか分からない。彼の部屋には植物の類いは一切なかった。あるのは雑誌書類、パソコン、テレビ、その他家電、家具といったもの。この実用性のみを追求した部屋に植物が加わるのは異色であった。

だがそう言った環境だからこそ、花の存在感は大きかった。

テーブルの端に置かれたノートパソコンを開き、「12月 花」で検索をかける。そして上位に表示されたサイトを見た。眼の前の花とサイトを見比べて佐竹は子豚の鉢に収められているのは黄水仙、雪ノ下、プリムラである事を知った。

ーへぇ。そんな名前なのか、これ。

佐竹は花の説明と合わせて書かれている花言葉に目をやった。

黄水仙(キズイセン) 愛にこたえて
雪ノ下 切実な愛情
プリムラ 永続的な愛情

全ての花言葉に愛という言葉が入っている。それに気がついた佐竹は少し熱くなった。
ふらっと訪れた一見客。花をくれと言ったら愛があふれる花を提供された。もしやあの山内という女性、こちらに気があるのか?などと自分にとって非常に都合のいい解釈をしたのである。

しかしよく考えてみれば、この時期に花をプレゼントする状況というものは限られてくる。店に飾ってあったのはまさしく、今の時期にふさわしい花の詰め合わせだったのだ。「展示してあるものと同じものが欲しい」と言えば、必然的にそのような意味をもあった花が提供される。
当たり前の事に気づいた佐竹だったが、内心少し残念な気持ちになった。

―なに浮き足立ってんだ、俺。

山内美紀とのきっかけを赤松から提供されただけで、気分がふわついている自分に気がついた。

―そうだ、一色はどうした。

無理やり話題を変えるように彼はニュースサイトを開いた。トップを飾るのは熨子山連続殺人事件だった。だがその記事は11時で更新は止まっており、新しい情報はもたらされていなかった。

―それにしても一色の奴、何で赤松のところに行ってたんだ。まさか、殺人の下見か…。いや待て…あいつは警官だ。警官なら俺の住所も知っているはずだ。…村上のも…。…と言う事はその気になればどうにでもできる…か。

冷静に考えてみると、一色に対して自分にできることは何もない。村上も同じであるはずだ。しかし村上は何かしらの行動を起こす旨を佐竹に伝えていた。個人の情報を抑えることができる立場である一色に対して、こちらには何の情報もない。丸腰で凶悪犯罪の犯人と接触を試みるというのであれば、無謀以外の何物でもない。

―しかし、俺は一色に殺される謂れが無い。

いろいろと考えを巡らせているところに一通のメールが佐竹の携帯に届いた。

「村上?」

佐竹は本文を読んだ。

さっきは熱くなってしまってすまん。

熨子山を通ってきた。検問していたよ。一色が拳銃を持って未だ逃走中だから気をつけてくれって警官に言われた。

俺も何の仕事をしているのか、今からどこに行くのかとか色々聞かれた。警官の様子を見る限り、あいつら一色の行方について、何の手がかりもなさそうだ。一体あいつはどこに逃げているんだろう。俺も少し怖くなってきた。

今日は本多がこっちに来るから夜遅くなる。また、明日の晩にでもお前んところに電話するよ。


佐竹は村上のメールを一読し「わかった」と返信した。

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25,12月20日 日曜日 13時52分 フラワーショップアサフス



外を見ると先ほどまで振っていた雪は止んでいた。

アサフスに面した山側環状線では、断続的に何台ものパトカーが熨子山方面へ向かっていた。ついさっきも機動隊の車が走っていった。異様な光景だ。
何か事件に展開があったのだろうかと赤松はテレビをつけた。しかし事件の続報を報じる局はなかった。サスペンスドラマやバラエティ番組の再放送、テレビショッピング等、日曜の日常がそこにあった。テレビのスイッチを切った赤松は店内の時計を見た。

時刻は13時52分。15時頃には葬儀会場の方へ行って、飾り付けを始めなければならない。

―もうしばらくしたら、出んとな…。

心の中でそう呟いた赤松は、ふさぎ込んだ綾がいる二階の寝室へ向かった。彼女はベッドの中に潜り込んでいた。

「綾。」

返事が無い。
赤松は彼女のそばに寄って、再び声をかけた。しかし返事が無い。彼は返事を期待せずに話しかけた。

「今日は葬儀会場に美紀と行ってくる。…辛いと思うけど、店番頼めっかな。」

綾はベッドの中でごそごそと動いて、返事のようなものをした。

―だめか。仕方が無い。母さんに頼もう。

赤松は静かに寝室のドアを締めて階段を下りたところにある和室の襖を開けた。老眼鏡を掛けた文子が新聞を広げて読んでいた。

「母さん。」
「何だい。」
「ごめんやけど、店番頼めっかな。」

文子は新聞紙に目を落としたまま赤松に答えた。

「いいけど、綾さんはどうしたんけ。」
「ああ、ちょっと体調悪いみたいねん。」

赤松は頭をかきながら、気まずそうに話した。すると文子はかけていた老眼鏡を外し、赤松の方を見て言った。

「桐本さんのことかね。」
「…そうや。何せ突然のことやから。」
「剛志。私、今テレビで犯人やって言われとる人知っとるよ。」

赤松と一色は高校時代の同期。部活動のことは家でも両親によく話していた。顧問や監督は厳しく、部長はこんな奴で、仲間はこんな奴がいる。親というのは自分が何気なく話したことや、人間関係のことをよく覚えているものだ。「どこそこの誰々さんは元気か」と自分でも付き合いがあった事を忘れている人物の名前を挙げて、質問してくる事さえある。母の文子が一色のことを覚えているのは当然だ。赤松は文子に「あの人は一色君でしょ」と言われる事を覚悟した。

「ああ。」
「あの人、昔、お父さんが事故で死んだこと聞きに来とったわ。」
「え?」
「ときどき、私がひとりで店番しとる時、ここに来とった。まさか、あの人が警察の偉いさんやって知らんかったわ。」

赤松は胸を撫で下ろした。文子は一色が赤松と剣道部の同期であったことを覚えていないようだった。だが、一色が父の事故死について何かを聞きに来ていた事に引っかかるものがあった。

「なんか、私、誰も信じられんわ。結局、警察なんて当てにならんげんわ。」

諦めの表情を浮かべ、ため息をついた文子は再び老眼鏡を掛けて、新聞に目を落とした。

「母さん。」
「なんや。」
「あの…俺…、父さんの事故の事、母さんから何も詳しく話し聞いとらんげんけど、何で俺に話してくれんが。」

新聞紙をめくっていた文子の動きが止まった。

「綾と結婚して、京都で普通にサラリーマンして、向こうで安定した生活しようとしとった時に、父さんが事故で死んで、母さん元気無くしとったから、こっちの方に帰ってきて、何も知らん花屋継いで、今まで頑張って来たんに、何であの事故のこと何も話してくれんが。何でいつもあの事故の事になったら、話はぐらかすんけ。母さんが辛いのは分かっけど、俺だって父さんの子供やぞ。俺だって何も知らんで辛いんや。」

赤松の感情が爆発した。感情的になっている彼の言葉を文子は黙って聞いた。

「ほんで、何け。一色には話したんけ。息子の俺に話せん事を、人殺しにぺらぺらしゃべったんか。あぁ?ほんなだらな。やっとられんわ。」

しばらく二人の間に沈黙が流れた。そして文子が力なく口を開いた。

「…ごめん。剛志…。」

文子の頬に一筋の流れるものを確認した赤松は、感情的になっていた自分に気がついた。だが、一度振り上げた拳を簡単に降ろす事はできない。彼は黙って文子を見つめるしかできなかった。

「あんたには本当に感謝しとる。でもこれ…約束やってん。」
「約束?」

文子は頷いた。

「でも、その約束をした一色君が、何でか分からんけどこんな事になってしまって…。」

やはり文子は容疑者があの一色だとわかっている。だが、赤松は文子の言葉の意味が分からなかった。一色が約束をしたとはどういう意味なのか。事故のことを何故自分に詳しく話してくれないのかということを詰問しただけなのに、どうしてそこに一色が入ってくるのか。

「ちょ、ちょっと待ってや。父さんの事故のことと一色の約束って何のことけ。」

文子は壁にかけてある時計に目をやった。時刻は14時15分を回っていた。

「剛志、あんた仕事にいかんなんやろ。」

そう言われて赤松も文子と同じ時計を見た。

「今、聞きたいんや。」

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2019年07月18日

23,12月20日 日曜日 13時08分 熨子山連続殺人事件捜査本部



「未明のガイシャの身元が判明しました。」

察庁組だけが残る捜査本部に関が入って来た。捜査データを分析をしていたスタッフは手を止めて関の方を見た。

「報告しろ。」
「はい。ひとりは穴山和也。23才男性。住所は金沢市銚子。地元ガソリンスタンドに勤務する男です。県外出身者であり、アパートに一人暮らしをしていたようです。勤務先のガソリンスタンドの店長が、出勤日のはずなのに連絡がつかないとの事で警察に届けがあり、本人の特徴等を照らし合わせた結果、身元が判明したものです。」
「ほう。で、もうひとりは。」
「はい。もうひとりは井上昌夫。こちらも23才男性。住所は金沢市土清水。地元繊維会社に勤務する男です。今日の10時頃、同居人である女性から警察に捜索願が出され、特徴等を照合の結果、本人であると判明しました。この井上も穴山同様、県外出身者です。」

松永は関の報告を受けて、几帳面にA3サイズのコピー用紙にフェルトペンで相関図のようなものを書きながら、関に質問をする。

「あー、二人の関係は。」
「調べましたところ、二人とも香林法科大学の同期生であるということです。」

松永は二人の名前を一本の直線で結びつけた。そしてその直線の中心からさらに一本の線を引き一色の名前を書いた。穴山、井上、一色の三名が英字のTで結びつけられる。

「で、この二人と一色の関係は。」
「それが、全く分かりません。」

松永はペンを置いて、腕を組んだ。

「現在は両者の携帯電話の通話履歴の解析を進めています。」
「わかった、その事については早急に報告しろ。あと、その二人の死亡推定時刻はわかったか。」
「はい。どちらも19日の23時40分頃と推定されます。」
「早朝見つかった遺体は。」
「20日の0時35分頃です。」
「ふむう。」

腕を組んだまま、顎を引き背もたれに身を預けた松永はA3サイズのコピー用紙を眺めた。そして再度ペンを手に取って、一色の名前からもうひとつTの字を付け足して、間宮と桐本の名前を書き、双方のTの字に関から報告を受けた死亡推定時刻を書いた。

―山小屋のコロシから展望台のコロシまで約50分か。この2つの地点は徒歩で約20分の距離だと聞いている。夜道だからそれが3割増だとしても36分。残りの14分は何をしていたのか。ホシはどうして山小屋で穴山と井上を殺してそのまま逃走しなかったのか。まさか何かの目的があって熨子山の展望台に行ったのか。どうして殺した相手の顔をめちゃくちゃにしなければならなかったのか。そもそもガイシャたちは何故、夜に熨子山の山小屋に行ったのか。

松永は考えを巡らせた。そこに部下のひとりが声をかけた。

「松永課長補佐。」
「なんだ。」
「今回の事件ですが、無差別殺人ではないでしょうか。」

松永はその言葉を聞いたとたん立ち上がり、その部下の座っていた椅子を右足で蹴飛ばした。その衝撃で彼はその場に倒れ込んだ。

「馬鹿やろう。てめぇどんだけサツの仕事してんだ。」

松永は倒れた部下の胸ぐらを掴み、自分の顔に彼を引き寄せ睨めつけた。

「え…。すいません…。」
「なんだぁ、てめぇ、ちょっと俺に蹴飛ばされたら前言撤回かぁ。」
「いえ、あの…。」
「お前、何の根拠があって無差別殺人なんて言ったんだぁ。言ってみろぉ。」
「い、いや、あの…。先ほどのガイシャと一色とは接点が無いと…。」
「接点がないと、どうなるんだぁ。説明してみなさい。」

相変わらず松永は彼の胸ぐらを掴んだままである。

「む、無差別殺人の動機は、い、怒りや復讐心といった感情が爆発した結果であ、あります。そのため犯人とは直接関係がない人間にその怒りの矛先がむけられることもあります。ほ、本件に関しても、お、同じような傾向があると思いましたので…。」

松永はそのまま部下を床に叩き付け、彼の腹部を右足で蹴り上げた。

「ぐっ…はっぁ…。」
「あのなぁ、もう一回学校で勉強してくるかぁ。」

その場にいた察庁組のスタッフは表情ひとつ変えずに、その様子を見ている。

「無差別殺人は怒りの爆発だというのは確かだ。だが、一色がその怒りを何に対して持っていたというんだ。人知れずひっそりとそのあたりの名無しさんを山の中で殺して何かの意思表示になるか。」
「あ、あ…。」
「いいか、これは連続殺人だ。そして快楽殺人だ。ガイシャの状況を見てみろ。みんな顔が無くなっている。特徴的だ。儀式的でもある。つまり人を殺す事そのものに意味がある。一色は捕まらない限り、必ずまた人を殺す。それが快楽殺人だ。動機なんざ無い。奴にとってこれはゲームなんだよ。」

松永はしゃがみ込んで倒れている部下を覗き込んだ。

「これは警察に対する挑戦だ。奴を舐めるな、心してかかれ。わかったな。」
「は、はい。」
「お前はガイシャが、どうして昨日の深夜に熨子山へ行ったのか。どういう手段で熨子山へ行ったのか。本当にガイシャらは一色と接点が無かったのか。それらを調べろ。」

狂人のようになったかと思えば、優秀な捜査官のようにもなる松永はまるで二重人格者のようだった。彼は自分の感情の起伏の激しさを逆手に利用して、人心掌握を巧みに行う術を知っていたのだろう。

「おい。」
「はっ。」

松永と目が合った捜査スタッフのひとりが返事をした。

「1時間後に山狩りだ。隈無くだ。所轄の捜査はどうも手ぬるい。100名程投入して熨子山全域を捜索しろ。その間は熨子山線も完全封鎖だ。」
捜査本部は慌ただしく動き始めた。

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2019年07月11日

22,12月20日 日曜日 11時48分 県道熨子山線 熨子町集落周辺



熨子山の登り口にあたる熨子町の集落周辺は、松永率いる捜査本部の指示で検問の体勢をさらに強化する事となった。1時間前には3名の警官が検問にあたっていたが、さらに補充され6名の人員が検問にあたっていた。

熨子町に唯一アクセスできる県道熨子山線は石川県と富山県を結ぶ生活道路でもある。そのため事件後もいつもどおり石川・富山の双方からの往来があった。このように交通量が多い道路を完全封鎖するのは難しい。そのため警官の補充を持って検問体制の強化を図ったのだ。

事件現場から最も近い熨子町の集落では、所轄捜査員が全軒対象の聞き込み捜査を行っていた。当時の車の通行状況や、不審な人物の目撃情報を中心に尋ね歩いていた。

さすがに山である。平野部ではちらちらと舞っていた雪も、ここではうっすらとではあるが積もりはじめていた。
検問の任にあたっている、警官たちは寒さに身をすくめながら、時々この場所を通過する車輌を止め、検査していた。

一台のSUV型の車輌が石川県側からこちらに向かって来た。警官が警棒を高らかに上げ、止まるように合図する。車輌は減速し、警官の指示通り停車した。

「おつかれさまですー。どちらにいかれるんですか。」

警官が運転手に声をかける。

「ちょっと、高岡の方に用事があって。」
「そしたら、免許証見せてもらえます。」

男は車のギアをパーキングに入れ、サイドブレーキを引き、助手席に置いてあった鞄の中からそれを取り出して警官に渡した。警官は老眼なのか、その免許証を目を細くして見た。

「…村上隆二さん。」
「はい。」
「この道はよく利用されるんですか。」
「まぁ、そうですけど。」
「お仕事は何されとります?」

警官は警戒されないように、方言丸出しで村上に接している。

「秘書です。」
「秘書?」
「ええ政治家の。」
「政治家の秘書さんですか。へぇ…。こんな天気が悪いがに高岡まで。」
「まあ。」
「その高岡まで何しに行かれるんですか。」

―いちいち面倒くせぇこと聞くな。

「党の会合です。」

警官が手を挙げて合図をすると、別の警官が二名こちらの方へやって来た。警官は免許証を村上に返した。

「そうですか。ご苦労さんです。あなたもご存知やと思うけど、ここの近くで事件あったもんで、一応この道を通る車の中を改めさせてもらっとるんです。ご協力のほどお願いします。」
「どうぞ。雪の中ご苦労様です。」
「じゃあトランク開けてもらえますかね。」

警官がそういうと、他の二人がトランクの方へ回りそれを開いた。瞬間、鼻を突くような臭いが二人を襲った。トランクの中には紙袋がいくつも積まれていた。金沢の老舗漬物屋の印刷が施されている。

「ああ、言うの忘れましたけど、トランクにはかぶら寿司が載ってますんで、臭いますよ。」

運転席側に立っている警官に村上はそう言うと、その警官は中を調べている二人の警官の方を見た。二人はこちらの方をしかめっ面で頷いている。

かぶら寿司は金沢の伝統郷土料理のひとつ。冬の日本海でとれる旬の魚、鰤を塩漬けにしたカブではさみ、人参や昆布と一緒に麹で漬け込み発酵させたものである。なれ鮨の一種とされており、カブの甘みと歯ごたえ、柔らかい鰤の食感、麹の酸味を味わう事ができる。金沢においては冬季限定で出回る高級食品でもある。麹で漬け込むため独特の臭いがし、そのためこの食品を嫌う人間もいる者も相当数いる。

ひととおりトランクの中を確認した警官が、「特に変わった容姿はありません」と報告すると、傍にいた警官が村上に尋ねた。

「もし差し支えがなかったらでいいんですけど、あなた、どなたの秘書さんなんですか。」
「本多善幸です。」
「ああ、本多先生ですか。それはそれはご苦労様です。道中気をつけてくださいね。」
「みなさんも早く犯人を捕まえてくださいよ。何か、おたくのお偉いさんらしいじゃないですか、今回の容疑者は。」
「ええ、大変ご迷惑をおかけしてます。」
「治安を司る警察幹部が連続殺人ですよ。しかもそいつは未だ拳銃をもって逃走中。」
「おっしゃるとおりです。なので十分に注意してください。」
「そちらも早いこと犯人逮捕お願いしますよ。」
「はい。全力を尽くします。」
「じゃあ。」

そういうと村上は窓を閉め、富山方面へと走り去って行った。

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2019年07月04日

21,12月20日 日曜日 12時22分 熨子駐在所



「よう。」

駐在所の奥にある畳が敷かれた休憩室で横になって、うとうととしていた鈴木は、不意を討つ来訪者に睡眠を妨害された。彼は目を擦りながらその身を起こし訪問者の方を向いた。

「なんや、トシじゃいや。」
「おう、お休み中すまんな。」

熨子駐在所を訪れたのは、捜査二課の古田だった。
彼は休憩室に上がり、その畳の上にあぐらをかいて座った。

「どうしたんや。急にこんなとこに来るなんて。」
「まぁ、お前に直接、いろいろ聞きたい事あってな。」

古田と鈴木は昔なじみの同期の間柄である。どちらも年齢は59才。来年には定年を迎える年だ。だが、彼らの警察における階級は異なっている。古田は県警本部勤務の警部であるのに対して、鈴木は駐在所勤務の巡査部長だ。

この同期の二人になぜこれだけの階級の開きがあるかと言えば、それはひと言で説明すると、その生き方に要因がある。
二人とも高校卒業後から警察官としての職務を担っている。古田は元々、公務員採用制度に疑問を持つ人間だった。受験できる採用試験は学歴によって区別され、スタートラインも違えば、その出世の終着地点も違う。学歴が全てのこのシステムになんとか風穴を開けたいとの気持ちが、彼を「スッポン」の異名を持たせる程にさせた。ノンキャリでもやればここまでできるという手本を示したいという目標があったため、昇進試験を積極的に受けて警部まで昇進した。

一方、鈴木の方は地域密着の交番勤務の仕事を続けたいために、管理の仕事が多くなる昇進を望まなかった。よって古田とは違い、昇進試験はほとんど受けていない。警察署の地域課で仕事をした事もあったが、上司に直談判して、最前線の交番勤務に配置転換してもらった。交番がよく機能していれば、犯罪は未然に防ぐ事ができる。仮に予期せぬ犯罪が起こったとしても交番が機能していれば素早く対応ができ事件の早期解決ができるはずだ。これが鈴木の哲学だった。この哲学は鈴木の仕事ぶりを持って警察内部でも評価が高かった。まさに地域密着の頼れるお巡りさんである。

だが彼のこの哲学は家族には支持されなかった。何年立っても昇進しない彼の給料はご想像のとおりだ。家族は少しでも生活が楽になるように鈴木の出世を望んだ。しかし彼はその要望をことごとく退けて来た。

「なんやお前も熨子山の帳場にかり出されとるんか。」
「いや、わしは違う。」
「ふうん。」

鈴木は立ち上がって、石油ストーブの上に置いてあった薬缶を手に取った。朝方から火にかけられ続いていたそれは、木製の取っ手さえも持つのをためらう程の熱を帯びていた。彼は茶の用意をしようとそのまま台所の方へ移動した。

「ああ、気ぃ使わんでくれ。聞く事聞いたら退散するさかい。」
「なんや、俺が出す茶は飲めんって言うんか。」

奥の方で茶を入れていた鈴木が湯のみを持って元の場所に戻って来た。そしてそれを無造作に古田の前の畳の上に直に置いて勧めた。

「すまんな。」

そう言うと古田はそれに口を付けた。寒さがこたえる季節の熱い茶は、体を芯から暖めてくれる。古田は自然と息を吐いた。

「で、なんや。」
「あのな、お前、ここに配属されてどんだけになるん。」
「3年や。」
「ほんじゃ熨子山周辺の事には相当詳しいんか。」
「まぁ、たまに山菜採りとかもしとっから、大方の事は知っとる。」
「熨子山の展望台から麓の方に降りてくるためには、県道熨子山線以外にどんな道があるんや。」
「そらぁ、いっぱいあるわいや。ハイキングコースもあるし、農道もあるし、獣道もある。犯人が逃げようと思えば、何とでもなるわ。でも、この山の事を相当知っとる人間じゃないと、難しいやろな。」
「なんでや。」
「なんでって、古田ァ。おまえ何も知らんげんな。」
「あ?」
「あのな。夜の山っちゅうのは、真っ暗闇なんや。どこにも灯りがない。」
「どいや街灯くらいあるやろいや。」
「だら。それあんのはお前の言う県道熨子山線くらいや。そのほかの場所は何もない。辺り一面漆黒の闇なんや。」
「ほう。」
「先ずその暗闇で方向感覚が無くなる。ほんで足場も悪い。山にはいろんな植物があるやろ。あれらが夜になると夜露を纏ってくる。ただでさえ視界が悪いがに、よろよろ歩いとってそれ踏んで転ぶ事もある。」
「んで。」
「んで山やから坂道ばっかや。ただ転んでも勢いついてダメージ3割増し。運が悪けりゃ骨折。下手したら崖から転落なんちゅうこともある。ほんで今は冬や。ただでさえ寒い。こんな季節に山の中にポツーンって置き去りにされたら、凍死っちゅうことも十分にあるんや。」
「そいつは危ねぇな。」
「ああ。夜の山はなめんなよ。」

古田は鈴木から聞く、夜の山の怖さについて納得しながら相槌を打った。

「まぁ、っちゅうことは、ホシはその危険極まりないこの山のことを簡単に逃げおおせるほど熟知しとるってことやな。」
「ああほうや。俺でも夜の熨子山は怖くて近寄れん。しかしあのひょろっとした神経質そうな一色が熨子山のことをほんだけ知っとったっちゅうのは意外やわ。」

古田はしばらく考えた。そして背広の内ポケットから手帳のようなものを取り出して眺めた。その1ページには一色の略歴がメモしてあった。

「どうした。」

鈴木は古田に声をかけた。

「一色は金沢北高出身や。」
「あ?そうなん。」
「ああ。北高は熨子山の麓の高校。」

鈴木は腕を組んで、天井を見て考えた。

「そう言えば、北高の生徒が熨子山をランニングしとることがあるわ。」
「ほう。なんの部活や。」
「ほら野球の格好しとるやつもおれば、バレーみたいな格好しとるやつもおる。結構いろんな部活の連中が走っとるぞ。」

古田は「そうか」と言って手帳に記してある、一色の略歴の中の金沢北高という文字の下に線を引いた。

「ところでお前、こんなこと一人で調べてどうすらんや。」
「…。」
「じゃまねえがん。」
「何が。」
「察庁から来たっちゅう、警視正さん。えらい曲者らしいな。噂はワシの耳にも入っとる。」

鈴木は茶をすすりながら古田の様子を伺った。

「まぁ、ワシはあいつとは関係ねぇわ。勝手に引っ掻き回してくれや。」

古田は短く刈り込まれた自分の頭を掻いた。

「お前、二課やろ。この事件は一課のシマやろいや。」
「ほうや。ほやからワシはひとりで調べとる。」
「ひとりで?」
「ああ。ホシは刑事部長やからな。シマは確かに一課やけど。ウチんところも無関係じゃない。」
「まぁそうやけど…。」
「あいつは一応、かつてのワシの上司やからな。」
「そうやったな…。」

古田は畳の上に置かれたアルバムのようなものに気がついた。
鈴木は古田の視線を追って、彼が何を見ているかすぐに察した。

「ああ、何かウチの娘が今度、男を連れてくるって言っとったから…。」
「おう、お前んとこの娘はいくつになったんや。」
「26や。」
「何の仕事しとるん。」
「銀行。相手も同じ会社の奴らしい。」
「おめでとうございます。」

古田は鈴木の方に向かって、わざと仰々しく戦国武将のように頭を下げた。

「やめてくれや。俺なんて、あいつに何一つ父親らしい事してやってないんや。今言った、年の事とかどんな仕事をしとるかなんて事も、つい最近カミさんに言われて知ったくらいや。」

鈴木はそう言って、少しもの寂しげな表情になった。古田は彼の表情の変化を見落とさなかった。

「でもな、そうやってちゃんと親父に報告にくるっちゅうことは、娘の中でお前はやっぱり父親やってことや。ワシなんかそうなる前にカミさんに逃げられとるからな。」

古田は苦笑いをして、アルバムを手に取りそれに目を落とした。古田の言葉に今まで家庭を顧みず、自分の好き勝手に仕事をして来た自分に自責の念を抱いていた鈴木は、少し救われる気がした。

「なあ。」
「なんや。」
「身元が分かっとるガイシャ2人おるやろ。」
「おう。」
「どっちも同じ会社に勤めとったそうやな。」

アルバムを見ていた古田は顔を上げ鈴木の顔を見た。

「んでうちの娘と同い年。…ほやからなんか被って見えるんや。」
「…。」
「なんかなぁ、俺も他人事じゃねぇげんて。」
「…ワシもお前も他人事では済まされん、どでかいヤマやってことやな。」
「ああ。ほやから俺にできることは何でも言ってくれ。できることはなんでもする。」
「助かる。」
「トシ。お前の手でホシをパクってくれ。」

古田はしばらく黙り、鈴木の目を見て言った。

「…まかせろ。」

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2019年06月27日

20,12月20日 日曜日 11時00分 金沢北署「熨子山連続殺人事件捜査本部」



北署の大会議室に設けられた「熨子山連続殺人事件捜査本部」には捜査員が集結していた。
上座には松永を中心とした幹部組10名がずらりと並び、それと向かい合うように県警本部および所轄の捜査員総勢60名が座っていた。
上座の中には本部長の朝倉と警備課長の三好、金沢北署署長の深沢の三人の姿も見える。張りつめた空気の中でキャリア組とノンキャリア組がひとりひとりの顔を確認するかのように視線を動かしていた。捜査一課の片倉は松永の隣に座り彼の表情を横目で見ていた。

「それでは定刻となりましたので、始めます。」

上座に座っていた主任捜査官が240平方メートル程の大きさの大会議室内に響き渡る大きな声で会議の開会を告げた。

「今日から本件捜査の指揮を執る松永だ。」

挨拶すらせず松永は切り出した。

「事件発生から半日を過ぎることとなったが、現在、マル秘(被疑者)の行方に関わる情報はこの場に一切もたらされていない。」
松永は自分の前に座る捜査員全体をゆっくりと見回した。おおよその捜査員は渋い表情である。中にはうつむいて彼と目を会わせないようにする者もいた。
「三好警備課長。」
「はい。」

三好は46歳で松永より年齢は上であるが、階級は下である。

「検問状況を報告しろ。」

松永は三好の顔を見ずに報告を命じた。

「えー警備部が刑事部から検問の要請を受けたのは午前0時50分。警備員が現着したのは要請から40分後の午前1時25分。現場に通じる県道熨子山線は県境から熨子町までの区間を完全に封鎖。熨子山線に繋がる県内主要道についても検問を実施。その間熨子山線を通ろうとした者および車輌はゼロ。その他の検問所に置いても本件に関する不審な人物等は確認されておりません。本日午前7時に捜査本部が設置されたのを受けて、現場付近の捜索を行った結果、凶器と思われるものを発見しましたが、それ以外のマル秘に関する手がかりはつかめていません。」

三好は手元にある資料に目を落としながら状況を報告した。

「わかった。じゃあ捜査一課。」
「はい。」

松永の隣に座っていた片倉は横目で松永をみて返事をした。

「捜査状況をひととおり報告してくれ。」

片倉は松永の態度と身なりに不快感を抱いていた。捜査本部に入ってきても所轄や現場の人間には挨拶ひとつしない。しかも身なりはジャケットにノーネクタイのクレリックシャツ。上から第二ボタンまで外している。
いくら自分のほうが階級が下だとは言え、こんな無礼者の年少者から命令口調で指示されるのは気持ちがいいものではない。
しかし、警察組織において階級は絶対だ。片倉は不快感を顔に出さないように従順に振る舞おうした。

「それでは報告します。本日午前0時2分。熨子町ハ20在住の塩島一郎から通報を受けました。その約25分後の午前0時30分。熨子駐在所の鈴木巡査部長が塩島の保護をします。その10分後の午前0時40分には所轄捜査員が合流。通報者保護の場所から徒歩で5分先の現場にて2体の遺体を確認。午前0時50分には本部捜査員も現場にて合流し、付近の捜査を行いました。同時間には警備部に付近一帯の検問を依頼。検問に関しては先ほど三好警備課長から説明があった通りです。私は午前1時半に現着。1時間程周辺の捜査並びに鑑識による現場の検証を指示しました。そこでマル秘のものと思われる車輌、被害者の遺留品等の物的な証拠品を押さえ、深夜のため一旦捜査を打ち切りました。そして本日午前6時半には新たに通報が入り、深夜の現場からさらに車で10分程先に行った熨子山山頂にある展望台で男女2名の遺体を確認する事となりました。」
「あーもういい。」
「は?」

現在までの捜査状況を全て報告しようとしていた片倉は、突然言葉を遮られた松永の顔を見た。

「これだから所轄は困る。」

この松永の言葉に緊張が走った。

「なぜ初動で熨子山山頂の捜査をしなかった。」

松永ははじめて片倉の目を見た。

「熨子山展望台の駐車場には車輌が止まっていなかったためです。普通はその駐車場に車を止めてそこから舗装されていない道を5分程歩いたところにある展望台へと向かうのですが、本日発見された男女2名の被害者はそこを車で突っ切って、展望台の傍に駐車しておりました。そのために当時の段階ではそこまで気が回らず、捜査しておりませんでした。それに深夜の山中にて発生した事件のため付近には灯りがありません。その中で隈無く熨子山を捜査する事も難しく、また深夜のため人員の確保も物理的に不十分となります。よって現場を押さえて検問体勢を維持し捜査を一旦打ち切ったものです。それに、現場からの主要な道路は警備が到着する前の午前0時55分には押さえております。ですからこちらとしてはマル秘の逃走経路の封鎖についてはできる限りの事をしております。」
「結果どうなった。」
「え?」
「いいか。」

松永は立ち上がってゆっくりと歩き片倉の前に立った。

「お前らは駒だ。機械だ。機械が勝手に判断するな。」

あまりもの上から目線の発言に、片倉の表情に不快感がにじみ出てしまった。

「つまり今後は指示された事だけをしろ。指示が出ていない事はするな。そういうことだ。何でも現場の判断が正しいと思うな。」
「といいますと?」
「お前ら現場としての判断が男女二名の尊い人命を失わせた可能性があるというとだ。少なくとも事件発生当時は夜を徹して山の中を隈無く捜査するべきだった。」
「お言葉ですが。」

合理的ではない意見を述べる松永にさすがの片倉もものを申さずにはいられなかった。

「先ほども申し上げた通り、物理的に考えて夜を徹してその時に熨子山全体を捜査するのは合理的ではありません。現場としてはできる限りの対応をしております。百歩譲って当時の捜査に誤りがあるとしても、今はその検証よりかは今後どのようにすればマル秘を確保できるかという事ではないでしょうか。」
片倉の目の前にある机を松永は右腕で力一杯叩いた。その力で机は歪んだ。
「黙れ、ノンキャリの分際で俺にいっぱしのことを言うな。貴様は捜査員としては必要ない。この捜査からは離れてもらう。その反抗的な態度も気にくわん。」

松永の突然の片倉外しに捜査本部はどよめいた。
今まで時として本庁の人間が捜査に加わった事があったが、ここまで理不尽な追求と合理性の欠く発言をする人間は見た事が無い。片倉は松永の目を睨みつけた。

「言っただろ。お前らは機械だって。」
「機械…。」
「ああ。壊れた機械は必要ない。産廃だ。消えろ。」

―だめだ、こいつ狂ってる。

そう思った片倉は手元に置いてあった捜査資料を片付けて捜査本部を後にした。
松永と片倉のやり取りを目の当たりに見せられた所轄捜査員は松永を睨み付けていた。

「おい、所轄。」

そう言うと松永は自分と向かい合って座っている捜査員60名の中から一人を指差して立ち上がらせた。

「お前、マル秘の名前を言ってみろ。」

捜査員の男は松永と目を合わせないようにした。

「一色貴紀です。」
「ほう。それはどんな男だ。」
「ど、どんなとおっしゃられても…。」
「じゃあ何のお仕事やってるんだっけ?」
「あの…警察官です。」
「役職は?」
「…県警本部刑事部長です。」
「あ?えーっと…それはお前らの親分だよな。」
「…そうであります。」
「ということは、お前ら所轄はマル秘の子分か。殺人鬼の子分か。」

松永は捜査員たちをあざけ笑った。

「座れ。」

捜査員は座り、その屈辱に肩を震わせていた。

「いいか、お前らの上司には重大な容疑がかけられている。そては現在の物証を見るに明らかなところだ。先ずはその事について恥と思え。そしてその汚名をそそぐためにもありとあらゆる手を尽くしてマル秘を確保しろ。そのためには一切の私情はこの捜査において挟むな。わかったな。」

先ほどまで狂人のように振る舞っていた松永は一転して捜査官の目になった。その変化に怪訝な顔をしていた所轄の人間達の表情は引き締まり、不思議と一体感を持った雰囲気となった。

「では、具体的な捜査の指示を発表する。」

そう言うと松永は着席し、関がその指示内容を発表した。

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2019年06月20日

19,12月20日 日曜日 11時52分 喫茶「ドミノ」



ひととおり説明した赤松は手元に置いてあるメニューに目を通し、その中から定食を頼んだ。佐竹も赤松と同じものを頼む事にした。

「今になって考えてみれば、あいつがウチの店に来てから何度か警察が来た事があったわ。」
「警察が?」
「ああ。」
「警察が何をしに?」

胸ポケットにしまってあった煙草を取り出した佐竹はそれをテーブルに置いた。赤松に「どうぞ」と促された彼はそれを咥えて火をつけた。

「ほら俺の親父、6年前に事故で死んだやろう。」

紫煙を口から勢い良く吹き出しながら佐竹は頷く。

「そのことについて、母さんにいろいろ聞いとったんやって。」
「え?今更どうして…。」

赤松は手持ち無沙汰そうに自分の人差し指にできたタコのようなものをかりかりと左手でいじりながら話す。

「わからん。でも当時の事は母さんしかよく分からんからな。俺は京都でサラリーマンしとったし。」
「母さんに聞かなかったのか。」
「…聞いたけど、あんまり詳しく教えてくれんかった。事故当時は母さんも親父が死んだ事にかなりショック受けとったから、俺としてはそれ以上突っ込んで聞く気にはなれんかった。」

佐竹はそっと灰皿まで手を伸ばし、落ちそうになったタバコの灰を人差し指で軽く叩いて落とした。そして再度それに口をつけて吸い込んだ。

「だから、俺としては正直複雑なんやわ。この事件についてはにわかに信じる事ができんげん。」
「すまん。久しぶりにお前に会ったと思ったらこんな形で。」
「気にすんな。逆を言えばこの事件がお前と俺を再会させた。そういうことやわ。」
「お、おう…。」

注文の品が出てきて、佐竹は煙草の火を消した。二人は定食に箸をつけ始めた。

「赤松さ。」
「何や。」
「怖くねぇか。」
「ん?」
「俺さ、怖いんだよ。一色の事が。」

赤松は食事を食べながらうつむいたまま話す佐竹を黙って見た。

「まだ捕まっていないだろ。」
「おう、そうやな。」
「ひょっとすると俺らの方まで何かの形で巻き込まれそうな気がするんだ。あいつとは全く関係がない間柄でもないしさ。」

佐竹がこの事件に関して無視を決め込みたかったのは、そういった感情を封殺するためだったのか。それとも単なる心細さからくるものなのだろうか。赤松は佐竹の心情を彼なりに解釈しようとした。

「あぁそうや。ちょっと待っとってくれ。」

そう言うと赤松は食事も途中のまま、外に出て行った。しばらくして彼は頭や肩に雪をつけてひとつの箱を持ってこの場に帰ってきた。そしてその箱についた雪を手で払って佐竹に渡した。

「これ。」

赤松は佐竹にその箱を手渡した。

「さっきお前が注文してくれたやつ。」
「あ…すまん。」
「お前、これ誰に上げらん?」
「いや、別に…。親にでもやろうかな。」

赤松は口元に笑みを浮かべ。

「お前、ウチのバイト気に入ってんろ。」
「なんで…そんな事ねぇよ。」

口ごもりながら佐竹は食事を続けた。

「お前、顔がにやけとったぞ。ばればれやぞ。」

気づくと赤松は食事を終え、備え付けのコーヒーに口をつけていた。

「お前、今も独身か。」
「大きなお世話だ。」

最後に残っていたみそ汁を一気に飲み干し、再度煙草に手をつけそれに火を付けた。

「36で独り身なら出会いの場も少ないやろ。」

佐竹は一瞬赤松の顔を見た。そしてうつむき加減に口を開く。

「まあな…。」

赤松は読みが当たったことに思わずほくそ笑んでしまった。

「あのな…ウチのバイト。あぁ美紀。山内美紀って言うんやけど、クリスマスは予定ないらしいよ。」
「はぁ?」
「はぁじゃねぇやろ。いい子やぞーあの子は。なんなら俺がちょっと様子をうかがってみても良いけど。」

思いがけない赤松からの提案に佐竹は動揺した。

「別にそんなんじゃねぇよ…。」

齢36ともなる大の大人が、顔を赤らめながらも虚勢を張り、傍にあった雑誌に手をつけて興味なさそうに振る舞った。しかし同時に先ほどの美紀の姿が頭から離れずにいる自分に気づいた。佐竹は今朝、これからの自分像を考えていたことをふと思い出した。

―結婚は無いな。

直視したくない現実から目を背けていた自分に一縷の望みが赤松から今、差し出されていた。

「まぁお前にその気がないんやったら深入りはせんけど。」

ここで拒否しては今までと何も変わらない。現状からの変化を望んでいたのは自分の方だ。そう思った佐竹は赤松と改めて向き合って彼の顔を見て言った。

「頼んでいいか。」

赤松はにやりと笑って「わかった」と快諾した。

「でもな、おれはあくまでも情報提供するだけやぞ。動くのはお前やからな。」

佐竹は「すまん」と軽く赤松に頭を下げ、おもむろにズボンのポケットから財布を出して、花の代金を支払おうとした。

「いいわいや、お代はいらんって。それよりもお前は目の前の目標をクリアする事に集中してくれ。」

何度も支払いの意思を示すが、赤松はそれを固辞した。

「俺やって今起こっとる事件について誰かと腹割って話したかったんや。でもほんな相手誰もおらん。そんなときにお前のほうから俺に会いに来てくれた。別にこっちから連絡もしとらんげんに。」
「悪かった。急に顔だして。…でもなんか電話とかするよりもそのままお前ん所に行った方がいい気がしたんだ。」
「こう言ったらなんやけど、嬉しかったぜ佐竹。」
「え?」
「ほらこの歳になると、わざわざアポとって会うとか多いやろ。知らん間柄でもないげんに。」
「あ、ああ。」
「でもお前、昔みたいにふらっとウチに来てくれた。んで回りくどい説明とか無しで、すぐに本題に入った話ができた。」
「そうだな。」
「こういうことねんろうな。本当の友達って。」

赤松のこの言葉は佐竹の心に刺さった。

「お前と話しして少し気持ちが楽になった。あんやと。」
「俺こそお前に感謝している。おかげで気が紛れた。」
「頑張れや。また連絡する。」
「お前もな。」

二人はそう言うと席を立ち、ドミノを後にした。

店の外は雪が舞っていた。

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2019年06月13日

18,6月15日 火曜日 15時00分頃 フラワーショップ「アサフス」



一年半前の雨が滴る六月。赤松は自分の店で店番をしていた。
六月の花と言えば紫陽花、菖蒲、泰山木と言ったものが主で、普段花を使用した生活を営んでいない一般の家庭にはあまり花屋は縁がない時期かもしれない。
アサフスに来店する一般客の多くは田上、杜の里の住人である。赤松はそれらの客の顔と名前を大体覚えていた。たまに見慣れない顔の客が来る事があるが、それらの一見客はここから車で二十分先にある熨子山の墓地公園へ墓参りに行くための花を買いにくる客が主だった。だがそれらの大半は盆や彼岸の時期に集中する。

スーツを着たサラリーマン風の男が梅雨時の昼間に、この店に来る事はあまりない。第一印象が不自然だったため、当時の事はよく覚えている。
男は店内にある花が入った冷蔵庫の中を眺め、足下に置いてあったバケツに入った墓参り用の花束に目をとめた。

「これ、ひとつ下さい。」

男はその佛花を指差し、低い声で店にいた赤松に言った。
赤松は返事をして花を取り出し、包装紙に包んだ。

「お客さん、お墓参りですか。」

男の口元は少し緩んだ。

「赤松、俺だよ。久しぶりだな。」

誰か分からなかった。赤松は男の顔を3秒程眺めた。口元にある黒子が目に入った時気づいた。

「一色か!」
「そうだよ。」
「久しぶりやなぁ。スーツ着とっから誰か分からんかったわ。」
「冷てぇなぁ、気づいてくれよ。」
「どうしたん、こんな平日の昼間に来るなんて。」
「いや、噂で赤松が実家を継いだって聞いたから、墓参りの花を買いに来たんだ。ちょっと仕事を抜け出してな。」
「仕事?」
「ああ。」
「え…?おまえ、こっちで仕事しとらん?」
「まあな。」

赤松は一色が東京の国立大学に進学した事は知っていた。しかし、そんな立派な学歴を持った彼が地元に帰って来て仕事をしていることに、少し違和感を持った。当然、当時は一色が警察である事も赤松は知らなかった。しかしそれ以上は仕事について突っ込んだ話はしなかった。彼なりに事情があるのだろうと思った。

一色との会話は10分ほどだっただろうか。久しぶりに高校の同期の連中と集まってみたいという内容の会話だ主だった。

「ところで一色、誰の墓参りなんや。」

一色は少し口をつぐんだ。

「あぁ、ごめん。ちょっと聞いただけなんやわ。」
「いいよ。ちょっと繋がりのある人の墓参りだよ。」

そう言うと一色は店の奥で事務仕事をしている妻の綾と母の文子を見つけた。

「あの人がお前の奥さんか。」

綾はパソコンに向かって入力作業をしている。

「まあね。」
「奇麗な奥さんじゃないか。お母さんも元気そうだな、良かった。」

文子は老眼鏡を掛け、そろばんを弾いて伝票の仕分け作業をしている風だった。

「母さんは年やから、昔みたいにって訳じゃないけど、俺よりかは元気や。」

一色はしばらく綾と文子を眺めていた。

「みんな強いな…。」

そう言うと一色は勘定を済ませて、赤松にまた来ると言って背を向けた。

「赤松。」

赤松は彼の背中を見た。

「いや…何でもない。」

この言葉を残して一色は店を後にした。それから彼がこの店に来る事はなかった。

赤松はその時の一色の表情が印象に残っていた。物寂しげな表情。
昔は剣道部の部長として赤松たちを牽引してきた人間が、10数年経ちその背中に哀愁さえ漂わせる姿は、時の流れを感じさせると共に赤松にとっても寂しさを感じさせた。

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2019年06月06日

17,12月20日 日曜日 11時25分 喫茶「ドミノ」



一時期金沢にはカフェと呼ばれる社交場が乱立した。
この手の店は、ぶらりと気軽に立ち寄れる場所はあまり多くない。洒落てこぎれいな雰囲気のものが多く、選ばれし意識の高い人種であることが条件として課せられる。

その中においてひとりでくつろげて、誰かを待つのに持ってこいであるのはやはり純喫茶だ。
客層の嗜好をしっかりと捉えた新聞や雑誌、マンガ等が豊富であり、それなりの年齢の世代が集う。店で交わされる会話も良い。何より自分だけの世界を作れることが純喫茶の魅力でもある。

アサフスから犀川を渡った旭町の純喫茶「ドミノ」に佐竹はいた。
店主以外誰もいない店の中で、彼は一番奥のテーブル席に座り雑誌に目を落としていた。

店の外で車のドアが閉められる音が聞こえた。
それから20秒後にドアが開かれ赤松が店内に入ってきた。

赤松はカウンターに立つ店主にコーヒーを注文し、そのまま佐竹の正面に座った。
すぐに店員がおしぼりと水を持ってきた。赤松は湯気の出るそれで手を拭き、続いてしっかりと顔を拭いた。

「あのさ、お前どう思う。」

佐竹は切り出した。
顔を拭いていたおしぼりを丁寧にたたんで赤松はうつむいたまま答えた。

「ふぅ…信じられんよ…。本当に。」

赤松は「それに」と付け加えて話し続けた。

「今、報道されとる被害者の女の子おるやろ。」
「おう。」
「あの子実は昔ウチでバイトしとった女の子ねんわ。」
「えっ…。」
「何が何だかさっぱり分からん。俺のかみさんもショック受けてさっきから仕事が手ぇつかん状態や。」
「あの…お前の奥さん、一色とお前の繋がりを知ってんのか。」
「いや詳しくは知らん。だからまだ救われとる。もしもそんな細かいこと知ったらあいつパニックになっちまう。」

コーヒーが出され、赤松はそれに口をつけた。

「なぁ佐竹。お前はどう思ってんだ。この事件の事。」

佐竹は手に持っていた雑誌をテーブルの上に置いた。

「お前と同じだよ。信じられん。正直そういう漠然とした感想しかでてこない。」
「そうやよな…。」

二人の間にしばしの沈黙が流れた。

「なぁ赤松。お前、村上と連絡とってる?」

佐竹が切り出した。

「え?村上?」

赤松は首を振る。

「そうなんだ。」
「村上がどうした?」
「あのさ。俺、実は今でもあいつとよく連絡とってんだけどさ。」
「へぇ。そういやお前ら昔っからよくつるんどったよな。」
「ああ。」
「村上あいつ、今なにやっとらんけ。」
「政治家の秘書。」
「まじで。」
「マジ。」
「へぇ…なんかすげぇじ。」
「ああ。たしかに政治家の秘書って言うと聞こえはすげぇ。けどあいつ自身は高校の時からなんにも変わってないよ。」

そういうと佐竹は、先ほど村上とこの事件について電話でやり取りをしていた事を赤松に報告した。
今回の事件については所詮過去人間関係。だから他人事と割り切ってしまうのが得策であると。

「んであいつはどんな反応を?」
「却下。」
「却下?」
「ああ。むしろ俺が冷たいとかで一蹴された。」
「なんやそれ。」
「あいつはいったん熱くなるとどうにも止まらん。」
「ははは。ほんとに高校からなんにも変わっとらんげんな。村上のやつ。」
「言ったろ。なんにも変わっていないって。」
「で、そんな村上に感化されてなんかわからんけど、俺んところに来たってわけか。」

自分はそうは思わないのだが、結果として見れば赤松の言う通りだ。

「高校の時もだいたい何かのきっかけを作るのは村上。ほんで佐竹、お前はまずはそれにダメ出し。でも結局行動力がある村上に引っ張られて、知らんうちにその中で巻き込まれる。お前ら18年経っても変わらんな。」
「そ、そうか…。」
「まぁでも、俺はちょっと複雑。」
「そうだな…。被害者はお前のところで働いていた子だし、容疑者は昔の同級生だし…。まさかそんな状況だとは知らなかった。すまん。」
「謝んなって。別にお前が悪い訳じゃねぇやろ。あのさ、お前が村上に言ったことは一理あると思う。いやむしろ正しいと思う。いくら昔強い繋がりがあったとしても、それ以来疎遠でありゃあ昔は昔、今は今。実際俺は一色をぶっ殺したいってくらいにすら思っとった。」
「思って…いた…?」

赤松は半分に減ったコーヒーの中にフレッシュを注ぎ、それをかき混ぜた。

「ニュースに初めて触れたときは正直、初めてづくしの情報ばっかりでなんのことかよく分からんかった。一色が警察やったってことも、あいつがそこの幹部やったってことも。」
「それは俺もさ。」
「でもしばらくして、なんとなく飲み込めてきた。ほしたらなんか、あいつのことぶっ殺したくなってきた。」

言葉に熱を帯びる自分を収めるかのように、赤松はコーヒーを飲み干した。そして深呼吸をして彼はゆっくりと口を開いた。

「でもな、実は俺…去年の夏に一色と会っとれんて…。」
「え?」
「去年の梅雨の時期や。あいつウチの店に来てさ…。」

そういうと赤松は当時の事を振り返り始めた。

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2019年05月30日

16,12月20日 日曜日 10時55分 フラワーショップ「アサフス」



朝から振っていた雨は雪に変わっていた。
世間一般では金沢は雪国としてのイメージが強く、十二月の金沢といえば「雪吊」が施された兼六園の風景が有名である。樹木の幹付近に柱を立て、その先端から各枝へ放射状に縄を張り巡らせることで枝を保持する。この雪吊りの威力が発揮されるのは一月半ばから二月にかけて。この間一番雪国らしい天候が続く。昔は十二月の段階で積雪となっていたが、近年は地球温暖化の影響なのか、この時期に積雪といえる程の雪が降り積もる事は無い。

佐竹はアサフスの駐車場に自分の軽自動車をバックで止め、目の前にあるアサフスの店内の様子をしばらく伺っていた。
フロントガラスにいくつもの雪が付き、定期的に左から右へワイパーがそれを除ける。ガラスの右の端にはうっすらと雪が溜まってきていた。アサフスの駐車場には自分以外には乗用車は一台だけ止まっている。佐竹は客がいなくなるのを待っていた。

客と思われる一人の女性が店から出てきたのを確認して、佐竹はエンジンを切り、車から降りてそこへ向かった。

「いらっしゃいませ。」

アルバイトらしき若い女性が店内で作業をしながら声をかけた。
佐竹はそれとなく客の振りをして地面に置いてある花や観葉植物に目をやった。しかし彼はあまりそれらに興味が無いため、その動きに落ち着きが無かった。店に置いてある植物たちに目をやりながら、赤松がいないか確認をするも彼の姿は見えない。

「プレゼントですか。」

女性店員が佐竹に声をかけてきた。
気づくと子豚の形の鉢に三種類程の花が詰め合わせてある商品の前に立っていた。

「ああ、ええ。」
「それ、最近人気があるんですよ。花もかわいいんですけど、子豚の鉢がいいって評判ですよ。お客さんが今見てらっしゃるのはディスプレイ用なんで、もしよろしかったらお好きな花を選んでくれれば、こちらでその豚さんに詰めて差し上げますよ。」

女性は屈託の無い笑顔で対応してくれた。目鼻立ちがくっきりとした佐竹のタイプの女性だった。年齢は自分よりひとまわり若いだろうか。
この瞬間、今日の朝に結婚についてあれこれと考えていた自分の姿を思い出した。

「じゃあ、それと同じやつでお願いします。」

別に誰にあげる訳でもない。ただなんとなく買う気になった。単に佐竹のスケベ心からくるものであることは間違いない。自分の口元がなぜか若干緩んでいるのが分かった。

「ありがとうございます。それじゃしばらくお待ちください。」

そういうと女性は鉢を取りに店の奥へ入っていった。店内には佐竹しかいない状況になった。
電話の音が鳴った。店の奥から店主と思し召しき男が出てきて電話をとった。
身長は百六十センチ程。この小柄な男は、物腰柔らかに電話の応対をしている。彼の頭には白髪が散見された。天地の低い銀縁の眼鏡をかけ、あごひげを蓄えている。

「そうやねぇ、いつご入用ですかねぇ。」

金沢独特の語尾を伸ばす方言で電話の先にいるお客と会話をしている。

「二十五日け。ちょっと待ってねぇ。」

そういうと男は店内をきょろきょろと見渡し、こちらを見て動きを止めた。佐竹と目が合った瞬間彼の顔つきは硬いものになった。ひと呼吸おいて男は目を細めて佐竹の奥の方を見た。佐竹は振り返ると、すぐ側の壁にB2サイズの月表カレンダーが貼ってあることに気づいた。

「うん。大丈夫やよ。そしたら用意しとくし、その日の午前中に配達するさかいよろしくね。」

男はメモを取りながら「ありがとう」と言って電話を切った。

「赤松…。」

佐竹は男の方に寄って行き、彼の名前を呼んだ。

「久しぶりやなぁ、お前も見たんかニュース。」

赤松は真剣な顔で佐竹の目を見た。

「俺も丁度お前に連絡しようと思っとったんや。」
「お待たせしましたぁ。」

店の奥から女性店員が子豚の形の鉢を持ってきた。彼女は佐竹と赤松が向かい合っているところからどちらに言うわけでもなく「お知り合いですか」と声をかけた。

「ああ、俺の同級生。」

赤松が答えた。

「何、これお前買ってくれらん?」
「まあ…。そうだけど。」
「プレゼントだそうですよ。」

本当は別に欲しくもない花だが、何となく流れで買ってしまったなどと言える訳もなくとりあえず佐竹は答えた。

「ありがとうございます。」

そう言って赤松は佐竹を見た後、続けて女性店員を見た。そして先ほどまで真剣だった表情を少し緩めた。

「美紀ちゃん。このお客さんのために特別なラッピングしてあげて。」
「はい。がんばります。」

元気のいい声で答えると、美紀と呼ばれたその女性はその場で花を詰め始めた。

「佐竹、少し時間あるか。」
「ああ。」
「ここじゃ何だから、久しぶりに『ドミノ』でも行かんけ。」
「いいけど、お前仕事は大丈夫なのか。」
「大丈夫や。今ちょっと時間に余裕出たし。」
「そうか。」
「まぁ仕事より大事な事だってあるわい。先に行っとってくれんけ。俺、少し片付けんといかんことあるから、10分位でそっちに行く。」
「わかった。けど、その花はどうする。」
「その時に俺が持っていくから。ああ、お代はそん時で。」

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2019年05月23日

15,12月20日 日曜日 10時35分 金沢北署



朝倉と別所の二人は記者会見を終えて北署の署長室に戻った。
するとそこに二人の男が応接用のソファに座っていた。二人は朝倉と別所に気づくとすぐに立ち上がり名乗った。

「初めまして。刑事局の松永です。」

始めに挨拶をしたのは中肉中背の年齢は三十代後半~四十代前半と思われる男の方だった。
朝倉ははじめてその男を見た時に不快感を覚えた。襟と袖だけ色の違うクレリックシャツを身に着けた松永の胸元は第二ボタンまで外されていた。
彼は朝倉に手を伸ばし握手を求めた。

―これが上司に対する挨拶か。

渋々松永と握手をしたが、朝倉は眉間に皺を寄せ不快感を露にした。

「すいません。私のスタイルはお気に召さなかったですか。申し訳ございません。」

松永は朝倉の気持ちを察しそれとなく自分の行動の弁護をした。しかし朝倉はその言葉自体が嫌みにしか感じられず、無視をしてソファに座った。
松永は次いで別所と軽く手を握り自分の側近である関を二人に紹介した。関は松永とは違い、丁寧に挨拶をした。

「松永の補佐をしております関と申します。よろしくお願いします。」
「よろしく。」

朝倉は座ったまま関に対しては軽く会釈をした。
松永と関。対照的な人間が自分の前に座っている。松永の口元は若干上がり気味で、何やらにやにやとした表情であるのに対して、関はその表情に変化が見られない。身なりも松永はカジュアルなのに対して関はスリーピースのスーツと固い。見た目では関の方が上司に見える。

「本部長。」

前屈みになるように松永は自分の顔を朝倉の方へ近づけた。こっそりと話したい事がある人間は、自分の身や顔を近づける。しかし彼のその表情は相変わらず笑みを浮かべている。朝倉は気味が悪かったのでそのままソファに深く座った体勢で彼の言葉に耳を傾けようとした。

「勝手な事をされては困りますな。」

松永の表情は険しいものとなった。

「今後、この事件の捜査の全権は私が握ります。あなたはこの捜査に一切関与していただきたくない。おとなしく外野から見守っていてください。」

唐突だった。

「松永、貴様こそ誰にその口を叩いている。貴様こそ勝手な事をほざくな。」

はじめて松永を見たときから、その挨拶の仕方や身なりに嫌悪感を覚えていた朝倉は、階級では下にあたる彼の物言いにとうとう頭に来た。

「これは察庁の意向です。あなたこそ変な正義感を持ち出して勝手な事をしているではないか。」
ドスの聞いた声で松永は朝倉を睨みつけた。そして関に「おい」と合図をすると、彼はおもむろにバッグの中からノート型パソコンを出し、数回キーボードを
叩いて朝倉にその画面を見せた。

「これを御覧ください。」

メールが画面に映し出されていた。官房総務課長の宇都宮からのものだった。
朝倉と別所はそれに目をやった。件名は『先程の件について』である。

松永殿 

先ほどの県警の記者会見は大変残念である。
上意下達の意思決定システムに支障を来すような事があっては
警察組織の混乱を招く恐れがある。
ついては君に今回の熨子山連続殺人事件の総指揮をとってもらいたいというのが上層部の意見だ。
朝倉本部長の重大な命令違反についてはけいさつにおいて厳正な処分を行う予定だ。
それまで彼にはこの事件に関する一切の関与も認めない。
そのように彼に君の口から伝えておいてくれ。
追って私からも彼に直接問いただす。
事件の早期解決に期待をしている。

「まぁこういう事ですよ。本部長。」

メールを読む目の動きが止まったのを見計らって、松永はあっさりと言った。
朝倉はじっとパソコンの画面を見つめている。

「当然、今回の件の全責任は本部長にありますが、警務部もその重大な連絡が不行きであった点でお咎め無しとはいかんでしょうな。」

別所の顔は引きつった。額には汗がにじんでいる。

「おまえは刑事局の人間だろう。」

パソコンの画面の影から朝倉は鋭い眼光を光らせ松永を睨んだ。

「そうですがなにか。」
「刑事局の人間がなぜ官房から直接指示を受ける。」
「私は事件の捜査に関して刑事局長に委任されてきましたので、その手の指揮系統のご質問についてはお答えしかねます。おい関、あれを見せてあげなさい。」

松永がそう言うと彼の隣に座っている関が再びバッグを開き、中から一枚の紙を取り出した。
A4一枚の紙には捜査の権限を松永に一任する旨がしたためられ、捜査第一課特殊事件対策室長、捜査第一課課長、刑事局長の印が押されている。

朝倉はその紙をしばらく黙って見ると深くため息をついて「わかった」とだけいった。
その言葉を受けて松永は先ほどの笑みを浮かべた表情に戻り、ソファに座り直し一礼した。

「ご協力ありがとうございます。」
「ひとつ聞きたい事がある。」

そう言って朝倉は松永の捜査経験について質問した。
どこの馬の骨とも分からない頭でっかちの世間知らずに現場を荒らされては堪らない気持ちがあった。松永は朝倉の質問にひと言で答えた。

「今回がはじめてです。」

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2019年05月16日

14,12月20日 日曜日 10時17分 本多善幸事務所



「また連絡する。」

そう言うと村上は佐竹との電話を切り自分のデスクに戻った。傍にいる女性が東京の事務所から電話がかかってきている旨を告げたので、村上は保留にしてあった電話に出た。

「はい、村上です。」
「お疲れさまです。村上さん、テレビ見ましたよ。」
「あ、ええ。」
「先生からさっき電話があって、地元で起きた事件なので大変心配しているようでした。村上さんに対応を任せると言ってました。」

―任せると言われてから動いていたら遅いんだよ。

「いやぁ僕も地元にいて長いんですが、正直こんなひどい事件ははじめてですよ。とりあえず身元が判明している被害者のお宅には、私かこっちの事務所の人間が行くように段取りしています。先生にはご心配なさらないように伝えてください。」
「それにしても警察幹部の犯行と疑われているようですね。今回の事件。」
「ええ、そのようですね。」
「こっちの方じゃ警察庁がぴりぴりしていますよ。何せキャリアですからね、容疑者は。」

村上の頭に一色の顔が浮かんだ。

「キャリアね…。」
「前代未聞の大事件。いったい警察は何やってんだか。」
「確かに。」
「犯人は未だ行方知らず。村上さんも注意してくださいよ。」

電話の内容はどうでも良いものだった。ただ、この電話で世間が容疑者=犯人として扱われている現実を知った。
まだ一色は容疑者である。
犯人は一色であると決まった訳ではないのに、世の中がそう動いている。情報の伝播の早さと何の疑いも持たず決めつけで行動する人間の怖さを村上は感じ取っていた。

「村上さん?聞いてます?」

うわの空だった村上は野田と話していた事を思い出した。

「村上さん。先生は十四時二十五分羽田発の飛行機でそちらに向かいます。十五時小松空港到着の予定に変更はありませんので、車の手配をよろしくお願いしますよ。」
「あ、はい。」
「どうしたんですか、村上さん。なんか変ですよ。」

村上は電話を切ると両目の鼻の付根を指でつまんで目を瞑った。自分は少し疲れている。
今日の段取りを部下に指示すると村上は事務所を後にした。

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13,12月20日 日曜日 10時21分 フラワーショップ「アサフス」



アサフスは金沢市田上の山側環状線沿いにある生花店である。

田上は熨子山の麓にある国立大学を中心とした学生街で、近年開発が進んでいる地区である。赤松剛志はここに生まれ育った。今は二代目社長としてこの店の切り盛りしている。アサフスの創業者である剛志の父は、六年前突然の不慮の事故で他界。当時、京都の大手メーカーに勤務していた赤松はそれをきっかけに妻の綾と一緒にこちらに戻ってきた。当時は花屋の仕事について無知に等しかったのだが、最近は同業の連中に板についてきたとなんとか認められるようになってきた。

赤松は今日の晩に執り行われる葬儀用の花の手配に追われていた。花屋にとって葬儀会社や結婚式場は上得意先である。そのためミスは許されない。赤松は電話で得意先と何度も確認をし、飾り付けをした花に誤りが無いか入念にチェックした。
継続的に大口の発注が出るこれらの会社を赤松は自分でコンスタントに開拓している。そのためアサフスはこの不況時においても仕事量は増えており、そんな中で赤松は忙殺されていた。

通帳の記帳で銀行に行っていた妻の綾が足早に店に戻ってきた。傘をたたみダウンジャケットについた雨の雫を払ってブーツを脱いだ。

「ただいま…。」
「お疲れさま。銀行混んどったけ?」

綾の顔も見ずに赤松は伝票を手書きで起票しながら答えた。

「綾?」

返事が無いことに気がついた赤松は手を止めて彼女の方を見た。
綾は赤松と目を合わさず、カバンを金庫にしまった。

「おい。どうしたん綾。」
「剛志…テレビ見た?」
「え?」
「テレビ見た?」
「いや…見てない。どうした?」

綾はリモコンを手にして部屋のテレビをつけた。

「それにしても残忍な事件ですね。」
「はい。警察の発表によると被害者である4人のうち2人は同じ職場の交際中の男女ということです。ひょっとすると容疑者はこの被害者である女性に何らかの好意を抱いていて、ストーカー行為に及んでしまった可能性も捨てきれませんね。」

テレビでは犯罪心理学者といわれる人物が、司会者の質問に答えていた。

「ですが先生。そうなるとこのカップルの他の2人はどうなるんですか。」

こう言って司会者はフリップを出した。
そこには間宮孝和と桐本由香の名前が書かれ、写真が貼り付けられていた。

「え…?」
「そうですね。ひょっとすると行きずりの犯行かもしれません。」
「ということは犯人はこの桐本さんに好意を抱いていて、その交際相手もろとも殺害し、ついでにまだ身元が明らかになっていない人間を2人殺したと?」
「き…桐本…?」
「ええ。サイコパスの要素を持っているとすればあながち不思議でもありません。」
「え...綾...この桐本って...。」
「由香ちゃん...。」
「そ...そんな...。」

流し台の前に立っていた綾の肩は震えていた。
桐本家は赤松家と同様、田上の土着の家だった。田上は、その住人のほとんどが元々は農業を生業とする普通の田舎町だった。それが環状線が開通する事で区画整理がされ、住民たちのほとんどが不動産オーナーになるなどして農業を棄てた。だが昔ながらの田舎特有の繋がりは依然として強固な地域であり、赤松は同じ町会の桐本家の長女由香をアルバイトとして二年間雇ったことがあった。

「なんで…。」

綾は顔を覆って泣いていた。
こんな時はすぐに彼女のそばに寄って、何も言うこと無く抱きしめてやれば良いのだが、それ以上にショックが大きくそこまで気が回らなかった。
赤松はテレビ目をやった。
司会者とコメンテーターと思われる男が話をしている。

「大変深刻な事態になってきましたね。」
「はい。現在のところ現役の警察幹部が容疑者として手配されているそうですが、仮にこの男が犯人であると立証されると、前代未聞の事態となります。本当に信じられません。」

―警察幹部?

「確かにこれは絶対にあってはならない事件ですね。とにかく容疑者の一刻も早い逮捕を望むところです。ではここで再度容疑者の情報をお伝えします。」
容疑者の顔写真がインサートされた。赤松はその写真を見て絶句した。
「え…。」

火にかけてあった薬缶から勢い良く蒸気が吹き出していたが、相変わらず綾は流し台の前に立って肩を震わせ泣いていた。赤松はテレビに目を向けながらその火を消し、綾のそばに立ち彼女の肩を引き寄せ、弱々しく言葉を発した。

「綾…。」

赤松の自分を呼びかける声に我を取り戻したか、彼女は涙を手で拭い彼の顔を見た。赤松の視線はテレビに向いたままだった。そして彼はその方に向けてくいっと顎を上げた。綾は促されてそちらの方に向いた。

「俺、こいつ…知ってる…。」


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2019年05月09日

12,12月20日 日曜日 10時10分 北陸タクシー株式会社駐車場



「ふわぁ~。」

大きなあくびをしている間は、無の境地を味わうことができる。
北陸タクシーのドライバーである小西規之は今しがた車庫に帰ってきたところだった。この仕事に関しては二十年のベテランであるが、やはり普通と違うバイオリズムでの仕事は、五十八を過ぎたこの体に鉛のように重い疲労感を与えてくれていた。
小西は車からゆっくりと降り、自分の腰をさすりながら事務所の方に向かった。今日のアガリを事務所に入金し、タイムカードを押して一分でも早く帰宅したい気持ちだった。そんな小西を背後から呼ぶ声が聞こえた。

「ノリさーん!」

振り返ると恰幅のいい男がこちらに向かって手を振っている。身長は百七十センチぐらい。体重は見た感じで百キロ相当ありそうだ。彼のベルトはいつものように腹に隠れて見えない。冬の北陸は上着なしではかなり寒い季節であるが、彼は長袖のシャツを腕まくりして着ていた。小西の後輩の南部達夫だった。彼は巨体を揺らしながら小西の側にやってきた。

「なんや?」
「いやぁ最近さっぱりでさぁ…。ノリさんはどう?」

近くに寄って初めて分かることもある。この寒い季節に南部は額に汗をかいていた。

「どうって…。全然だめやわいや。不景気や。」

そういうと小西は腰をさすりながら、再び事務所の方にむかってゆっくりと歩き始めた。南部も彼と肩を並べて歩いた。

「ほんとに最近は長距離ってないよね。」
「そうやなぁ…。少なくなったなぁ。」
「これって、やっぱり景気のせいなのかな?」

南部は地元の人間ではない。
彼は十年前に勤務先の会社が倒産し、それがもとで離婚。行く当てもなく石川県に来た時、小西の運転するタクシーに乗車した。それが縁で現在小西と同じ職場で仕事をしている。
関東出身であることは話し方で分かるが、どこの出身かは誰も知らない。それ以上のことは誰も聞かなかった。

「んーでも羽振りがいいところもあるしなぁ。」
「この時代に儲かってるってどこの会社?」
「いやぁ、ここらへんの会社はたかが知れとる。やっぱり東京のほうは会社は違うんやろう。」

二人は事務所の事務員に現金の入ったポシェットを渡して、タイムカードを切った。時刻は十時十三分だった。

「いやな、昨日のお客が言っとったんや。」
「東京の客?」
「いや、ようわからんけど、やっぱり東京のほうが銭になるんやと。そのお客は何が金になるかは言わんかったけどな。」
南部はハンカチを取り出し、自分の額をそれで拭った。
「ふうん…。で、そのお客さんは羽振りよかったの?」
小西はそっと手のひらを南部に見せた。

「五千円?」
「だら。五万や。」
「えーっ!!」
「しーっ。大きな声出すなや。みんなに感づかれるやろ。」
「…え?どこからどこまでだったの?」
「小松空港から金沢まで」

そう言うと小西は自分の腰をさすりながら周囲を見渡した。今気づいたのだが事務所の皆がテレビを見ている。小西もつられてそれに目をやった。見覚えのある建物の前にひとりのレポーターが立っていた。

「何やこれ。北署やがいや。」

誰に言う訳でもなく小西はそう言った。四十歳前後の女性事務員がそれに応えた。

「ノリさん、知らんが?」
「何が?」
「昨日の夜中に熨子山で殺人事件があってんよ。」
「はぁ…?熨子山って、あの熨子山か。」

小西は事務員の横にある空いた椅子に腰をかけた。

「そうやぁ、4人も殺されたんやって。」
「え…おい、ちょっと待てや。ワシ…昨日熨子山に客乗せてったぞいや。」

小西はそう言うと持っていた運転日報を事務員に見せた。

「うそ…。」

事務員は驚いた表情で小西を見た。そのやり取りを何となく聞いていた周囲の社員達が小西のそばに寄ってきた。
事務員は小西の日報を指でなぞりながら確認をする。そこには十八時十五分に小松空港で一人の客を乗せて、十九時三十五分に熨子町でその客を降ろしている事が記載されていた。

「ノリさん乗せたのこいつ?」

傍にいた南部がテレビの方を指差した。そこには眼鏡をかけた男が写っている。

「こいつ現役の警察官だってさ。ありえないよね。」

小西はその男の顔を見るとしばらく考えた。

「いや…よう分からんわ。なんちゅうか…ワシが乗せた客はサングラスしとったから何とも分からん。」
「でもノリさん、あの容疑者って、夜の七時まで仕事しとったってさっき言っとったから、ノリさん乗せたその人と多分違うと思う。」

女性事務員がそれとなく小西を擁護する。

「いやぁ分からんぞ。ノリさん、そりゃ警察に言った方が良いんじゃねぇか。」
「そうだよ、関係なくても情報提供はした方が良いぞ。」

小西の周囲はたちまち騒然となった。

「なんや…えらいとばっちりやな…。」

遠くの方でこちらのやり取りを見ていた部長が小西を手招きしている。小西は別に自分では何の悪い事もしていないのだが、すごすごと身をすくめてそちらの方に移動した。

「ノリさん。明日は休め。」
「部長、どういうことですか。」
「俺から社長に言っとくから、いまそこで言っとった事ちゃんと警察に言えぃや。」
「でも部長…。」
「心配すんな。ちゃんと有給にしとくから。」

部長はそう言うと声を小さくして付け加えた。

「今晩はその客から貰ったチップで飲んで、明日はちゃっちゃと警察に行ってこい。」

部長は先ほどの南部とのやり取りをしっかりと見ていたようだ。

「すんません。じゃあ明日はよろしくお願いします。」


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2019年05月02日

11,12月20日 日曜日 10時10分 佐竹宅



―どれもこれも景気の悪い話ばかりだな。

広げた新聞には世の中に対する悲観論が充満していた。

今度の内閣人事に関する分析と課題についてばっさりと斬り捨てられた政治面。

デフレによる景気後退。それに伴う消費の低迷はますます深刻さを極めつつあるとする経済面。

所得や雇用の格差に関する社説。

親が子供を殺したという殺人事件が大きな枠を占領している社会面。

この世は救われることのない、苦しみばかりの地獄であると言わんばかりの紙面だ。

地獄の原因は政策の失敗であるそうだ。現政権を打倒することが唯一の問題解決方法らしい。

だが、現政権を打倒してどのような舵取りを期待するのか。

野党から具体的な政策提言はなにもない。
とにかく現状をぶっ壊せば何か良くなる。
こんな論調が新聞紙上にも世の中にも蔓延していた。

―こんな新聞毎日読んでいたら頭が変になる。

そう思って佐竹はそれをしまい、テレビに目をやった。チャンネルは先ほどと変わらない。

テレビではアイススケートの大会で優勝した選手のそれまでの軌跡やプライベートの様子を解説つきで伝えていた。しかし突然画面が切り替わってメインキャスターが映し出された。

「えー先ほどの金沢で起こった殺人事件について、新しい情報が入ったようなので現場から中継でお伝えします。」

画面が切り替わり、先ほど中継で出演していた記者がマイクとノートを持ってこちらに向かって立っていた。彼の背後には金沢北署。署内の会見場から走ってきたのか、彼の息は切れていた。

「はい。先ほど行われた警察の記者会見で衝撃の事実が明らかにされました。」

ーは?なんだそれ。

レポーターが興奮した様子でそう言うと即座に一枚の顔写真がテレビの前に映された。
写真の彼はその眼鏡の中の瞳で、佐竹をじっと見つめている。

「容疑者は一色貴紀。36歳。県警察本部刑事部長。現職の警察官です。」

その言葉を聞いて佐竹は一気に血の気が引いた。

「え…。」

言葉が出なかった。画面から伝わってくる鉛のような重量級のエネルギーが彼を包み込む。体が動かない。金縛りとはこういう状態を指すだろうか。
テレビの向こう側の記者とスタジオのメインキャスターは質疑応答をする。

佐竹は近くにある棚の上の写真にゆっくりと目をやった。
その写真には自分を含めた高校時代の剣道部のレギュラー五人が写っている。五人の真ん中に蹲踞の状態でこちらをまっすぐ見つめる男がいた。

「そんな…馬鹿な…。」

剣道防具の垂には一色の名前が刻まれていた。
佐竹は再びテレビを見た。テレビでは容疑者は拳銃を携行している恐れがあるという事で注意を促していた。そして時々容疑者の顔写真がインサートされる。
突然携帯が震えた。佐竹はそれを手に取った。村上からだった。

「もしもし。」
「おう、俺だ。おまえ…今…テレビ見ているか。」
「お…おう…。」

村上と話すのは三週間ぶりだ。声色から彼も動揺しているように感じ取れた。

「これって…一色だよな。」
「あ…あぁ。」

もう一度画面に映っている写真と自分の部屋に飾ってある写真を見比べてみる。
テレビに映る顔写真は昔の写真の人物の面影を色濃く残している。

「そうだと思う…。」
「やっぱり…。」

二人の間にしばしの沈黙が流れた。テレビが事件の事をひととおり伝え、別の話題に移った時、村上が口を開いた。

「なぁ…どうする…。」
「どうするって…どうしようもねぇよ…。」

自分以上に村上は動揺している。そう思った佐竹はテレビを切り立ち上がってブラインドの隙間から外を覗いた。雨が降ってきていた。

「あの…村上さぁ…。お前あいつと連絡とってんのか。」
「ん?誰だあいつって。」
「一色だよ。」

数秒前と違ってやけに冷静な自分になっている事に佐竹は気づいた。

「いや…とっていない。何だ。」
「いやな…あいつ警察官だったって俺、いまテレビ見てはじめて知った。」
「あぁ…俺もだ...。」
「金沢にいるってこともはじめて知った。」
「ああ...。」
「だからその程度の付き合いの男なんだよ。」
「え?何だお前、その冷めた言い方は。」

先ほどまで動揺していた村上の言葉に多少の怒気が含まれていた。佐竹はそれを無視した。

「なあ、今はそんな事で動揺している場合じゃねぇだろ。」
「どういうことだ。」
「お前も俺もなんだかんだって忙しいんだ。高校時代にちょっと付き合いがあった程度の友人の心配なんかするよりも自分のことを考えたほうがいいんじゃね。」

携帯の向こうで村上を呼ぶ女性の声が聞こえた。

「はっ佐竹。お前ずいぶんと冷てぇ事言うんだな。」
「んだよ。」
「曲がりなりにも高校時代に同じ釜の飯を食った仲だろ。んでそん時の経験は俺らに大きな影響を与えた。お前もそうだろ。」
「それとこれと何の関係があるっていうんだよ。」
「確かに俺はあいつと連絡はとっていない。だけどそんなお前みたいに今は付き合いないから赤の他人だって言い切れんよ。絆ってもんがあるだろう。」
「それでどうするんだ。」
「わからん。これから考える。」
「けっ相変わらず面倒くさい男だな。」

佐竹は呆れた。

「お前がそんなに薄情な男だとは俺は思ってなかったよ。仕事が入った。また連絡する。」

通話を終了し、佐竹は深いため息をついた。そして高校時代の写真を手にとりそれを見つめた。
自分は今まで困難や悩みに直面した時、よくこの写真を見てきた。血のにじむような練習を積み重ねた。部員間でいろいろな軋轢もあった。
しかし結果として全くの無名だった高校が県大会で準優勝する事ができた。目標を持って必死になって何かに打ち込めば必ず結果は伴う。そのことをこの時はじめて体を持って知った。高校時代は佐竹の価値観に大きな影響を与えた時代だった。

しかし、そのかけがえの無い時代を部長として牽引していた男が、重大事件の被疑者として現在捜査の対象となっている。

―何かの間違いかもしれない。

どうしても受け入れがたい。本当にあれは一色なのだろうか。だが高校時代の面影がしっかりと残っている写真に写った彼の表情から考えると同一人物と考えるのが妥当だ。

佐竹は自分の気持ちの整理ができないでいた。村上には突き放した発言をしたが、それは自分の混乱ぶりが表面に出ただけのこと。さっきの発言のように振る舞うことが自分にとってできる唯一の事だともわかっている。一色とは高校卒業時から一切連絡も取っていないし、その方法も持ち合わせていない。そんな疎遠な関係である人間のことを親身になって考える事ができない。村上は絆と言った。絆をもってそこまで一色の事を考える事ができる村上が羨ましくもあった。

―赤松や鍋島はこの事をどう思っているのだろうか。

佐竹は自分と村上そして一色と共に写っている残り二人の事を考えた。

振り返ってみれば、あれだけ皆で打ち込んできたにも関わらず、高校時代の剣道部の同窓会のような催しは一度も開いていなかった。
部長の一色の音頭がなかったからという訳でもなく、何となく燃え尽きた感から自然とお互いが疎遠になっていったためだ。佐竹は村上とは偶然クラスが同じだったせいか、部活を引退後も交流を深めていたが他の三人とは学校ですれ違う時に軽く挨拶する程度だった。そんな中でたまにはみんなで集まるという発想も生まれてこず、何となくお互いがぎくしゃくした感じを持ち、そのまま疎遠となっていった。それから赤松とは今から三年程前に偶然、香林坊でばったり会った事がある。そのときに何となく近況等を少し話して連絡先を交換したが、それ以降どちらからも連絡を取っていない。

―赤松の家は花屋だったな。

自分の得意先にも花屋がいるので、朝早くから夜遅くまで働くその意外なまでの重労働について佐竹はわかっていた。
クリスマスも近くなりポインセチアのような季節ものの花やプレゼント用の花の販売で忙しくなるのはさることながら、葬儀やブライダルを抱えている花屋の多忙さも佐竹も知っている。そういった事情を知っているだけに佐竹は連絡するのに躊躇した。

―行ってみるか。

どうせ自分は何も用事がない。全くの休みだ。あれやこれとつまらない事を考えているくらいならば、外の空気を吸いに出てみるのも良い。そうすれば少しは気持ちの整理もつくだろう。それに現在の赤松もどんな仕事をしているか知りたくなってきた。

佐竹はタンスの中からグレーのニットと白いシャツを取り出した。若干の湿気を帯びた冬のシャツはそれを着た佐竹の肌に冷たい刺激を与えた。冬の着替えは生地の冷たさに対していちいち身構えなければならないので、大変おっくうである。

佐竹は着替えると残っていたコーヒーを飲み干し、車の鍵をもって部屋を後にした。


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2019年04月25日

10,12月20日 日曜日 8時40分 県警察本部本部長室



特殊な事件だ。現場の状況報告時からただならぬ緊張感と絶望感が朝の県警を覆っていた。

片倉は深夜の午前1時半に現場に赴いた。深夜の熨子山には闇しか無かった。車を停めて現場である小屋へ懐中電灯の明かりを頼りに向かった。しばらくすると闇夜にくっきりと映し出される寂れた山小屋が目に入ってきた。鑑識が設置した投光器によってそこだけが昼間のように明るかった。

片倉が現場に入って先ず目にしたのは見慣れたセダン型の車輌だった。この車のダッシュボードから一色の名前が書かれた車検証が押収されていた。

現場には被害者のものと思われる足跡とそうでない足跡が残されていた。被害者の足跡はこの小屋の中で消えている。しかし一方の足跡は違っていた。車から降りて小屋の中に入り、二体の遺体を踏みつけた形跡があった。足跡は小屋から20メートル程先に行った県道の傍で消えていた。この途中で消えた足跡は鑑識で分析してみないと誰のものかは分からないが、普通の考え方であれば一色のものであると考えた方が良い。

片倉は小屋の周囲をひととおり自分の目で見た後、その中に入った。長年捜査一課で様々な遺体を見てきた片倉でさえも、その惨状には目を覆うものがあった。

劣化した木造の壁に飛び散った大量の血しぶき。床には血溜まりが出来ている。シートが被せられた遺体を確認すると、その二体ともの顔が無くなっていた。

顔面を鈍器のようなもので激しく殴打されている。もう原形をとどめていない。顔面と頭蓋骨は粉砕され、周囲には脳や肉片が飛び散っていた。

あまりもの状況にそこから目を逸らすと、その遺体の傍らには一枚のハンカチを確認した。これにも片倉は見覚えがあった。

―部長のものだ。

片倉は二日前に本部のトイレで一色と同じになった。一色は用を足した後で、洗面所でハンカチを口にくわえ手を洗っていた。普段気にも止めないのだが、片倉はこのときだけ何故かそのハンカチに目が止まった。

片倉は一ヶ月前に訪れた自分の誕生日に高校生の娘からプレゼントをもらっていた。海外ブランドの財布だった。娘がアルバイトで稼いだ金で購入したようだった。元来身なりの事には無頓着な片倉だったが、愛する娘が汗水流して働いてプレゼントしてくれたものは身に付けないわけにはいかない。貰った翌日からそれを持って仕事に行った。

いつもの休憩場所である喫煙所の自動販売機でコーヒーを買おうとした時、傍にいた部下に財布について話しかけられた。

「課長、それブランドもんじゃないっすか。」
「ああ、そうらしいな。」
「どうしたんですか、それ。」
「娘から誕生日プレゼントで貰った。」
「それ、かなりいいやつですよ。良い娘さんお持ちですね。」
「そうなんか?」
「ええ、僕なんかも欲しいですけど、なかなか手が出ませんよ。」

このようなやり取りがあったため、それ以来そのブランドの存在に敏感になっていた。一色がくわえていたハンカチにも同じブランドのロゴマークが入っていた。そこで一色とそのブランドのことで二三言葉を交わした。

現場にはこの他にも一色にまつわる遺留品があった。
片倉はそれらのあまりもの遺留品の多さに戸惑いながらも、そのひとつひとつが『この犯行を行ったのは一色である』と自分に語りかけてくるのを受け止めていた。

そして今から10分前の8時半。鑑識からの新しい報告が入った。その報告は絶望的なものだった。
鑑識からの資料に目を通す朝倉本部長を前に片倉は直立不動だった。

朝倉は前頭部が禿げ上がった五十五歳の痩身の男である。目は細く少し垂れていて温和な表情をしているが、その実、眼光は鋭い。資料に目を通す眼鏡の奥に見える彼の目は刑事の目をしていた。

「信じられん。」

朝倉の意見は片倉と同じだった。

「私も信じられません。凶器からの指紋検出は決定的です。」

朝倉は資料を閉じ、しばし無言になった。

「…マル秘の氏名を公表しろ。」

朝倉の目が鋭く光った。

「しかし、察庁からは当面の間はマル秘を特定せずに捜査をしろとの指示ですが。」

この事件に一色が何らかの形で関わっているということは、現場の状況を見て即座に分かった。合計4名の被害者をだす重大な事件であるため、察庁には事件発生当時より逐一連絡を入れていた。察庁からの指示は被疑者を特定せずにあらゆる方面からの捜査を迅速に行えというものだった。

仮に一色が犯人であった場合、現役のキャリア警察官僚が起こした事件となり、それが世間に及ぼす影響は多大なもので、警察組織の信用問題に発展するのは必至である。そのため隠密に捜査をせよとの意図である。

察庁はこういったことは言葉では言わない。被疑者の発表を意図的に伸ばす指示をしたと明らかにされれば、それこそ二重の痛手となる。現場が察庁の意を汲めということだ。

「動かぬ証拠が出ているんだ、やむを得んだろう。」
「ですが本部長。察庁の了解を取り付けねばなりません。」
「それでは時間がかかる。いいからやれ。」
「お言葉ですが、そのような単独行動をすると本部長もただでは済みません。調整はした方が良いかと思います。」

朝倉は立ち上がって窓から外を眺めながら呟いた。

「片倉…お前はどこを向いて仕事をしている。」
「は?」

身内のボロを出さないように、秘密裏に捜査をしていこうという察庁の姿勢を無意識のうちに汲み取り、行動していた自分に気づいた瞬間だった。

「マル秘は現役の警察幹部。拳銃を携行している可能性があるのはお前もよく分かっているだろう。」

片倉は無意識のうちに自分のズボンの継ぎ目を握りしめていた。

「我々警察は市民の生命と財産を守る義務がある。マル秘が危険な凶器を未だ所持している可能性が捨てきれないならば、その公表は当然と考える。」

こちらに振り向いて片倉の目を見て語られる朝倉の意見は筋が通っている。

「確かに我々は警察組織の一部だ。勝手な行動は慎むべきである。だがそれ以上に我々は公僕であるという自覚を失ってはいけない。」

片倉はこれ以上朝倉に何も言えなかった。あまりの正論を聞かされたことで体が軽く震えていた。

「皮肉だが、これはマル秘がよく言っていた言葉でもある。」

朝倉が付け加えたこの言葉に片倉は少し引っかかった。

「では察庁にどのように報告すればよろしいでしょうか。今日の10時頃には松永リジ感がこちらに応援に来ますが。」
「調整は別所部長と俺に任せろ。おまえはそんな事に気を遣うな。先ずは被疑者の確保だ。検問の体勢を強化しろ。」
「了解いたしました。」

片倉は一礼し本部長室を後にした。
部屋にひとりになった朝倉は自分の席に座り大きく息を吐いた。
そして胸元から携帯電話を取り出し、電話帳から一人の男の電話番号を呼び出してそこにかけた。

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2019年04月18日

9,12月20日 日曜日 10時00分 金沢北署会議室



「えーそれでは定刻となりましたので、本日未明および早朝に発見された遺体に関する捜査状況についての記者会見を行います。」

報道記者やカメラで埋め尽くされていた金沢北署の二階にある会議室で記者会見は始まった。主要通信社および新聞社、並びに地方メディアが総出の記者会見。県警始まって以来の大規模な会見の様相だ。

会見席に座っているのは、県警本部長の朝倉と警務部長の別所、そして警務部総務課長の中川の三名である。

朝倉は記者席を見つめ、滑舌良く話し始めた。

「冒頭、皆様に一点謝罪をしなければならない事があります。」

この朝倉のひと言に会見場はしばらくざわついた。朝倉はそれが収まるのを確認して話し始めた。

「我々警察は、迅速な情報の公開を旨としておりますが、本件に関して通報から会見に至るまで十時間という時間がかかった事をまずお詫び申し上げます。」
そう言うと朝倉と別所、中川の三人は立ち上がって記者たちに深々と頭を下げた。

一斉にフラッシュが浴びせられ、そのため会見場内は真っ白になった。
三人は再び席に座り、本部長がマイクを持って再び話した。

「会見に至るまで十時間という時間がかったのは理由があります。これから本件の捜査状況と併せて皆様にご報告申し上げます。」

朝倉はマイクを隣に座っている総務課長の中川に渡した。

「えー警務部総務課長の中川です。本件についてご説明申し上げます。本日午前0時2分。男が小屋で倒れていると付近住民より通報がありました。即座に付近の駐在所並びに所轄へ現場に急行するように伝え、午前0時30分、通報者の保護を致しました。その10分後、所轄警察署の捜査員が合流。現場にて二体の男性の遺体を発見するに至りました。えー片方の遺体は頭を鈍器のようなもので複数回殴打された跡があり、もう片方は頚部を鋭利な刃物で何度か刺された跡が確認されております。二体とも遺体の損壊状況がひどく、未だ身元の特定には繋がっておりません。現在司法解剖を行っておりますので、死因は現段階では特定されておりません。また、同日午前6時半頃、えー本日の事でありますが、熨子山山頂付近を通りがかった男性から男女二名が倒れているとの通報がありました。こちらも現場へ急行し捜査致しましたところ、頭を鈍器のようなもので何度か殴打した跡がある遺体を二体確認しました。こちらについては遺留品の分析から身元が判明しましたのでご報告致します。
遺体の身元は間宮孝和、二十五歳、男性。住所は金沢市鳴和。勤務先は兼六広告株式会社。広告代理店の社員であります。またもう一方の遺体の身元は桐本由香、二十三歳 女性。こちらも間宮と同じ会社に勤務する社員であります。住所は金沢市田上。この二人の遺体の状況は未明に発見された遺体と同じような損壊状況でありました。未明の事件と早朝の事件はその殺人の手口が極めて特徴的で、共通する点が多い事から同一犯の連続殺人事件と判断し、本日午前7時、ここ金沢北署に熨子山連続殺人事件捜査本部を設置。捜査を行っておりました。そして捜査本部設置から30分後の午前7時半頃に犯行に使われた凶器と思われるものが発見されました。ひとつはサバイバルナイフ。もうひとつはハンマーです。鑑識にて分析を行った結果、その凶器のうちサバイバルナイフから犯人のものと思われる指紋が検出されています。」

中川は手元の資料をまとめて、次の資料を用意し大きく深呼吸して続ける。

「未明の殺害現場には多数の物証が残されておりました。犯人が使用したと思われる車輌。指紋等々。しかし、山の中で起こった未明の事件のためそれらを収集し分析するには時間がかかりました。よって今この時間にこの場所での記者会見という形で皆様にご報告となった訳であります。肝心の被疑者に関しては総合的に判断して一名の人間に絞られております。」

中川は冷静に記者たちに対して淡々と発言をしていたが、ここで言葉に詰まった。
それを見た警務部長の別所は中川の方を見て頷く。
中川も別所を見て発言を続けた。

「えー、被疑者の公表を致します。」

中川は一枚のA4サイズに拡大された顔写真を記者席に向けて見せた。

「本名一色貴紀。金沢市在住、三十六歳男性。当警察本部刑事部長であり現役の警察官です。」

一瞬、会見場は水を打ったように静まり返った。続けて周囲は騒然とし怒濤のようにシャッター音が響きフラッシュの洪水となった。われ先にとこの情報をいち早く伝えるために会見場から飛び出していく記者も少なくなかった。

「警察としましては裁判所に対して逮捕令状を請求し被疑者の逮捕に全力を挙げております。」

中川はそう言うとマイクを朝倉に渡した。
朝倉は報道陣をまっすぐ見つめて冷静に話し始めた。

「今程も中川の方から申し上げた通り、現在被疑者として捜索の対象となっているのは、我が県警の刑事部長であります。先ずは地域住民の皆様方にご心配をお掛けしておりますことに深くお詫び申し上げます。被疑者は未だ逮捕に至っておりません。付近を逃亡していることも考えられます。被疑者は警察官故、拳銃を携行している事も考えられます。地域住民の皆様方には、特に外出について充分に注意なされる事を望みます。また、彼と思われる男を目撃した際は近寄らず、速やかに警察まで通報ください。警察は被疑者の逮捕に全力を上げてまいります。地域住民の皆様のご理解とご協力をお願い致します。今般、警察内部からこのような重大事件の被疑者を出すに至った事に対して誠に申し訳ございません。」

朝倉はマイクを置き、再び立ち上がって騒然とする報道陣に向かって深々と頭を下げた。

「えー警察からの事件に関する説明はこれで終了です。記者の方々の質問をこれより受けさせていただきますので、質問のある方は挙手にてお願い致します。こちらから指名致しますので質問してください。」

進行役の職員がこう言うと、会見場の報道陣は一斉に手を挙げた。その中から一名の記者が指名される。

「毎朝新聞の林です。現役警察幹部が起こしたと見られる連続殺人事件ということですが、まず容疑者はどのような人物なのでしょうか。また、国民の治安を守るべき警察という組織から、このような重大事件の容疑者を出してしまったことについて、警察としてどのような責任を取るつもりなのでしょうか。」

これに対して朝倉本部長が答えた。

「えー被疑者である一色貴紀ですが、その勤務実績は極めて優秀であります。また、当警察本部内での評判も良い模範的な人物でした。特にこれと言ったトラブルのようなものも抱えている様子はなく。私どももこの件に関しては慎重に捜査致しました。しかし今回物証等を総合的に分析した結果、彼を被疑者と判断致しました。現在はその逮捕に全力を挙げております。現役の警察幹部が被疑者ということに関しては、過去にも例のない事態であることから正直申しまして非常に困惑しております。また、我々警察の責任に付いてですが、先ずは被疑者の確保が先決と考えております。事件の解決に一定のめどがついた段階で、私としては何らかの責任を取ることを考えております。」

質問は続く。

「東京テレビです。えー冒頭、事件発生から記者会見まで時間を要したことに付いて本部長からお詫びとしてのコメントがありましたが、やはり容疑者が現役警察幹部であるということで警察内の調整に時間がかかったことが要因であると考えて良いのでしょうか。」

この質問には別所警務部長が簡潔に答えた。

「はい。そのように受け止めてくださって結構です。」

「北陸新聞の黒田です。えー事件発生当時から容疑者とは連絡がとれなかったのでしょうか。容疑者である一色貴紀は現役の警察幹部です。連絡がつかない時点で不審だと思わなかったのでしょうか。また緊急時の連絡体勢や職員の所在を把握する点に付いて不備はなかったのでしょうか。」

警務部長の別所は一瞬眉間に皺を寄せた。朝倉の顔を見るとかれは頷いている。別所は朝倉の意図を組んだ形で、一切の情報を包み隠さず報告した。

「警察においては事件発生時には必ず警察無線でそのことを知らせる体勢となっております。この無線は管内の全警察に伝わります。しかし勤務時間外は緊急の場合のみ担当者および責任者に携帯電話で連絡を取ることとなっています。今回事件が発生した当時、被疑者に対して何度も連絡を取ろうと試みました。しかし電源が切られており一切繋がらない状況でした。そこで彼の住居に警察官を派遣しましたが、既に彼はそこにはいませんでした。職員の所在把握に付いては、プライベートに職員同士がおおよそどういう行動をするかをお互いに把握する体勢となっていますが、これにあまり立ち入るとプライバシーの問題等がありますので極めて難しい問題です。当県警では警察官の私用車にもGPSを搭載しその所在の把握を行う計画がございますが、現在のところまだそれは実現しておりません。現在は被疑者が所有する携帯電話から発生される微弱な電波をキャッチすることで彼の位置情報を取得するよう務めておりますが、それも昨日の20時から電源が切られておりその特定には時間がかかる状況となっています。また、連絡がつかなかったことに不審を抱かなかったかとの質問でしたが、不審というよりも一体どうしたんだろうかと、純粋に不思議に思っただけでした。今までの彼の仕事ぶりのなかで、連絡がとれないということは前例が全くなかったからです。」

質問した黒田記者はどこか合点が行かない表情だったが、これ以上質問はしなかった。
この後も質疑応答が続いた。時計が10時40分を指す頃に会見は終了した。

現在警察内において明らかになっている情報を全て公表し、今後も新たな情報が入り次第公表することを約束することで、紛糾するかと思われた記者会見は案外スムーズに終了し、記者たちは会見場を後にし始めた。

会見席に座っていた朝倉たちも席を離れようとしたとき、総務課の職員がこちらに足早にやってきて中川課長に耳打ちした。

「松永理事感が署長室にお見えです。本庁から十名のスタッフを連れてきています。11時から捜査本部で会議を開きたいとのことです。」

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2019年04月11日

8,12月20日 日曜日 9時38分 本多善幸事務所



「ありがとうございます。これもひとえに支えてくださった皆様のお陰です。」

村上隆二は代わる代わる顔を出す支援者達に平身低頭だった。

「先生にはもっと頑張ってもらわんとな。」
「地域の活性化に全力を尽くしてくれ。」
「夢を現実にして欲しい。」
「次は総理大臣やな。」

などと様々な要望を本多の代わりに村上は受け止めた。

支援者の大半は建設業界関係者。今回の本多国土建設大臣誕生は多いに期待するところである。
折からの不況と公共工事の予算削減の中、この業界では極めて厳しい風が吹いている。

当選当初から本多善幸は北陸新幹線建設促進会に参画。石川、福井、富山、新潟、長野、群馬の各県の代議士や自治体の首長たちと連携をとって長年政府に働きかけを行ってきた。そして民政党幹事長時代に着工にこぎ着けた。

ついに今回政府の公共事業部門のトップに上りつめた。今後はこの超大型事業の流れを絶やさぬよう、迅速にそして確実に工事を進めて行く。それが彼の議員人生の集大成でもある。いまこそこの公共事業を通じて財政出動を行い、デフレに陥ってしまった経済状況に刺激を与える。財政再建路線によって活力を失いかけている地域に元気を取り戻させ、新たな雇用も創出するのだ。
これが大義名分だ。考え方は決して間違ってはいない。

だがそのようなマクロ的な視点を支持者は期待しているわけではない。目先の仕事にありつけるかどうか。これが関心事であった。
つまり、

「先生にはもっと頑張ってもらわんとな」という言葉は「もっと地元に仕事を回してくれ」ということでもある。
また、「地域の活性化に全力を尽くしてくれ」は「国の税金を地元に落とすよう全力を尽くしてくれ」ともとれる。
「夢を実現してほしい。」の夢は国民総意の夢というより、むしろ北陸新幹線整備に関わる特定業者および関係団体の夢と置き換える事が出来る。
また「次は総理大臣。」という声はそれに就任する事で、この計画の更なる予算充実を図って欲しいとなる。

国会議員は国民の代弁者という。しかし支援者と言われる人間のほとんどが特定の業界関係者であり、議員自身も必然的にそういった連中とばかり顔を会わせる事となる。実情がそうだから世間一般では「国民目線での政治」と言っても説得力は無いに等しい。一部の人間の代弁者としての色彩が濃くなるのである。

村上は国会議員の秘書という仕事を通じて、そのギャップを肌身で感じていた。彼は彼なりの理想を抱いて地元選出の衆議院議員である本多の門を叩き政治の世界に飛び込んだ。しかし現実は厳しいものだった。愛犬の世話や家の掃除等の身の回りの世話から始まる秘書生活はまさに丁稚奉公だった。独特の閉鎖的社会における人間関係にも苦労をした。そんな中、彼はある段階で私心を捨てて働くことを決意し、自分の信条をねじ曲げてでも本多のために様々な策を講じて尽くすことにした。それもこれも自分の信ずる大義を実現するためだった。

秘書になった当初の三年間は苦悩と葛藤の日々で何度も逃げ出そうと考えた。しかし気づけば秘書歴十二年。同じ秘書の中では異例の早さで二年前から選挙区担当秘書を任されている。選挙区担当秘書の働きは議員の当落を決定する極めて責任が重いポジションだ。村上は目的を完遂するために、地元において後援会組織等を統括し本多の分身として振る舞い、時には彼の影となり本人では出来ない汚れ役も進んでやってきた。

「先生はいつ金沢に戻られるんだ。」

支援者のひとりが村上に尋ねた。

「はい、本多は一刻も早く皆様にご挨拶を申し上げたいとの事で本日16時にこちらに駆けつけます。」

「そうかそうか。」

満足そうに男は大きく頷いた。
本多の支援者は自分が本多善幸という議員を作り上げてやったと思っている人間が多い。だがそういう者に限って政治資金の寄付はたいしたことは無いものだ。こういった人間は自尊心が非常に強い。常にこちらは下手に出て相手を持ち上げるに限る。

「そのことはちゃんと後援会に伝わってとるんか。」

―この男は仕切りたいタイプか。ならば先に謝っておいた方が良い。

「大変申し訳ございません。そのことは今日の未明に決まったことなので未だ連絡は致しておりません。ただちに各後援会に連絡させていただきます。」

「うむ、わかった。わしも皆に連絡しよう。」

その男が事務所を後にするとぱったりと来客者はなくなった。来客者の第一波が過ぎたようだ。村上は事務所の休憩室へ向かい、そこに用意されているソファに深く座った。

「ふぅ。」

自然と声が出た。しばらく天井を見つめた。そして目を瞑る。一瞬で睡魔が彼を襲ってきた。村上はそれを払いのけるように立ち上がり、テーブルにおいてあるリモコンを使ってテレビをつけた。
テレビでは「ひとり千円で目一杯楽しむクリスマス」なる特集をしていた。
クリスマスと言えば一年で一番財布の紐が緩むと言われる時期である。近年の経済不況は国民生活に影響を与えており、クリスマスにおいてもそれは例外ではなかった。

―だったら無理してクリスマスなんかしなくていいじゃねぇか。

どうにかこうにか消費マインドを喚起させようとするメディアの特集内容に村上は呆れた。

―おめでてぇな。

村上は大のマスコミ嫌いだ。そしてその嫌いな連中が流す情報に踊らされる一部の人間も忌み嫌った。村上は情報の受け手に思考をストップさせ、世論を意図的に形成できる力を持つテレビという媒体を特に嫌っている。
特集は東京で今年注目の格安クリスマス商品とイベントを数点列挙して終了していた。

「えー、ここで再びニュースをお届けします。捜査本部が置かれている金沢北署の氏家さんと中継が繋がっていますので呼んでみたいと思います。」

メインキャスターはそう言って画面が中継現場に切り変わった。画面の左上部の小さな画面にメインキャスターの顔が表示されている。氏家というリポーターは金沢北署をバックにマイクを持って立っている。

―はぁ?北署じゃねぇか。何があったんだ。

村上は見覚えのある風景がテレビに映っていることに驚いた。

「氏家さん。その後新しい情報は入りましたか。」

リポーターはそれに答えた。

「はい、私は現在今回の事件の捜査本部が置かれている金沢北署の前にいます。ご覧の通り、記者会見が行われる十時を前にして各局の報道陣が続々とこちらに集まっている状況です。私ども報道関係者には事件の概要は事前に警察側から伝わっていますが、今回重大な発表があるとのことで十時の記者会見を待っている状況です。」

画面左上のメインキャスターがリポーターに尋ねる。

「氏家さん。重大な発表があるということですが具体的にどういった発表であると思われますか。」

「はい。えーおそらく事件の捜査について大きな進展があったと思われます。それは会見で明らかにされることと思いますので、現在のところその詳細に付いては未だ解っておりません。」

「そうですか。氏家さん、今回の事件は凄惨なものですが、地元の皆さんの様子といったものはどうでしょうか。」

「はい。今回合計四名の被害者が出ているとのことで、ここ金沢市においては過去に類を見ない重大な事件で、地元住民の間では不安の声が上がっています。ある六十代の地元住民は『信じられない。こんな地方都市でもこのような事件が起こるとは思っていなかった。今後は外に出歩くのを控えようと思う』と言っていました。」

―なんだ、なにが起こったんだ。

この時点で村上の眠気は吹き飛んでいた。

「そうですか、ありがとうございます。また新しい情報が入りましたらお伝えください。」

右上のワイプに収まっていたメインキャスターは全画面で表示される。

「えー今日金沢市で四体の遺体が発見された事件に付いてお伝えしました。記者会見の模様は随時お伝えしていきます。では次はスポーツの話題です。」

村上はテレビを消した。

―マジかよ。でかい事件だな…。被害者は誰なんだ。

村上は踵を返して仕事場に戻り、詰めているスタッフに事件が発生したことを伝え、被害者が明らかになった時点で、弔電および弔問の手配を行うよう指示した。


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2019年04月04日

7,12月20日 日曜日 9時08分 佐竹宅



朝目覚めると佐竹は激しい頭痛に襲われた。今になって昨日の痛飲の反動がやってきた。せっかくの休日だが、このまま眠っていてもいい。
休日故デートといきたいところだが、あいにく今は相手がいない。

この年齢になって地方都市での独身生活というものは結構応える。周囲は殆ど皆結婚しているし、気安く誘う訳にも行かない。それにこれと行った用件もないし娯楽も無い。

昔は特に用事もなく気の合う連中が集まってドライブに出かけたり、街へ飲みに繰り出していたが、不思議なもので年齢を重ねると友人を誘い出すのに大義名分が必要になってくる。結婚し子供がいるような家庭ならばなおさらの事だ。

佐竹は昼過ぎまで再び寝ようとした。
目を瞑ったがなかなか眠りにつけない。追い打ちをかけるように自分の脳がいろいろなことを勝手に考え始めだした。

二十四時間後には一週間が始まってしまう。有限な時間は自分にとって有益に使わなければ損だ。惰性で生活していては現状からの変化は望めない。
昨日、後輩である服部の結婚式に参加していて自分がそう思った事を思い出した。

どういった変化を望むのか。仕事のスキルアップかそれとも結婚か。
しばらく考えたがこの二つしか頭に浮かばない。そんな自分に落胆したが、これが自分だと割り切った。

どちらも望むところだが、仕事において佐竹は順調だ。金沢銀行に入行して14年。現在駅前支店の支店長代理になっている。別に猛烈に仕事に取り組んできた訳ではなく、資格試験を積極的にパスしてきた訳でもない。ただ単にこの金融機関の仕事が自分に合っていた。結果、今日がある。特に野心を持ち合わせていない佐竹には、これ以上仕事に求める事は無い。

―となると結婚か。

しかし正直、結婚願望は無い。それをする事で何が幸せなのか解らない。昨日の結婚式で新郎の服部が新婦を一生守っていくと言っていたが、そのような全責任を請け負う気持ちを女性に対して持った事が無い。
不確かなものを婚姻届という契約と扶養という義務で形式上確かなものにする。そういった事でしか結婚の意味を汲み取る事ができない佐竹には、それは将来の人生設計の担保にすらならないと考えていた。

―(結婚は)無いな。

次から次へと自問自答してしまうこのような状態では眠りにつくことなどできない。寝る事を諦めた佐竹は体を起こして洗面所に向かった。おもむろに歯を磨き始め、ブラシをくわえたままリビングへ戻りテレビのスイッチを入れた。テレビでは全国ネットの朝の情報番組が流れていた。

金曜日に行われた内閣改造による新しい顔ぶれの紹介をメインキャスターが報じ、数人のコメンテーターがそれに対して論評していた。彼らは新鮮味がないとか、旧態依然とした顔ぶれ、派閥均衡人事、お友達人事と好き放題に論評している。確かに六十代後半以上の世代ばかりで構成されたこの内閣に新鮮味はない。話題性が特にないこの内閣改造で敢えて注目するならば、石川県出身の代議士本多善幸が国土建設大臣に就任したことだろうか。
本多は当選六回の与党民政党のベテラン議員であり、時期総裁候補と目される人物でもある。

この本多は佐竹にとって全く関係のない人間ではない。彼は佐竹が勤務する金沢銀行の専務取締役の本多慶喜の実兄でもあるからだ。
政治に全く関心を示さない佐竹であったが、本多の動きは注視していた。確かに役員の実兄であるという事情もあるが、それよりも佐竹の親友である村上が本多善幸の選挙区担当秘書を勤めていたためだ。

―国土建設大臣か…。

国会議員の本多善幸と金沢銀行の本多慶喜は金沢の総合建設業「マルホン建設株式会社」の創業者である本多善五郎の息子である。

マルホン建設は公共事業を主とした建設土木工事を生業としている。5年前より政府は財政再建路線の立場を取り、公共事業の見直しを図っている。この政策の影響をもろに受けたのは建設業界だった。契約金額は減少し、受注量も激減した。今までに財務状況が悪化し数々の会社が倒産した。マルホン建設の財務状態も例外ではなく、二期連続の赤字といった状況だった。
そのなかで突然、この日本全体を不況の波が襲った。これは建設業界にとってはダブルパンチだった。今までに無いスピードで会社の倒産が続いた。

このまま財政健全化を加速させていくと、さらに建設業界は危機的な状況に陥ってしまう。建設業界の望みはこの政策転換であった。
マルホン建設は佐竹の勤務する金沢銀行駅前支店の顧客。佐竹はこの会社の担当者でもある。融資の実行の権限等は当然支店長以上の役席にあるが、佐竹も現場でその財務諸表に目を通しているので内情は解っている。また、マルホン建設に主として訪問するのは佐竹なので、会社内の雰囲気は誰よりも彼が知っている。

現在、金沢銀行のマルホン建設における債権の一部は貸出条件緩和債権となっている。金沢銀行における自己査定区分では要注意先であるが、今後の業況によっては破綻懸念先へと格下げしなければならない厳しい状況にあった。慢性的な債務超過体質がマルホン建設の財務状況を圧迫している主たる要因で、その状況下で業績不振と不況の波が重なってくると先は見通せない。

今回の新内閣においては従来の財政再建化路線を一旦中止し、積極的に財政出動して公共事業を行う事で、景気浮揚を図るという政策転換を唱えていた。
この流れの中でマルホン建設の創業者の息子が公共事業の総元締である国土建設大臣に就任したことは意味深い事だった。

―これでマルホン建設に仕事が流れるチャンスが出てきた…か。

再び洗面所に戻って洗顔をする。真冬の冷たい水道水は佐竹の顔面を引き締める。

―村上も大変だな。

顔を拭き鏡に映る自分の姿を見ると、頭のあちらこちらに白髪を発見した。それを二三本抜き取ったが、次々に発見されるそれには無駄な抵抗だとあきらめた。

「たった今ニュースが入りました。報道フロアからお送りします」

自分の頭髪に気をとられていた佐竹は振り向いてテレビに目をやると、ひとりのアナウンサーが複数のモニターが並ぶ報道フロアを背に立っていた。報道フロアではスタッフが慌ただしく走り回っている。

「本日未明、石川県金沢市の山中で二体の遺体が発見されました。また、その6時間後の午前6時半頃にも付近で男女二名の遺体が発見され、警察としてはこれらを何らかの関連があるものとして捜査をしています。」

アナウンサーがそういうと画面が代わった。
鑑識と思われる捜査員が暗闇の中、小屋の周辺でフラッシュを焚いて撮影する姿や、指紋を採取する様子、鑑識同士が話す映像が流れた。
アナウンサーはその映像を補うように原稿を読む。

「本日未明、付近住民の通報から石川県金沢市の北東部にある熨子山山中の小屋から男性二名と思われる遺体が発見されました。遺体には数多くの傷が確認されており、警察は二名の身元を調べると同時に彼らが何らかの事件に巻き込まれたものとして捜査をしています。また、それから六時間後の午前六時半頃、始めに遺体が発見された小屋から車で十分程先にある展望台に男女が倒れているとの付近を通りがかった人からの通報により、新たに二体の遺体が発見されました。警察では始めに発見された遺体と、その後発見された遺体の損傷状況が似ている事から、その関連についても捜査本部を設置して捜査をしています。」

映像は一旦終了し、報道フロアのアナウンサーの画面に切り替わった。追加の原稿が画面の外のスタッフからアナウンサーの手元に手渡される。

「えー、警察ではこの事件に関して本日十時から記者会見をするとの事です。本日金沢市の山中で起きた事件に関して十時から記者会見を行う予定です。以上ニュースを報道フロアからお伝えしました。」

画面が先ほどの情報番組に変わる。

「はい、ありがとうございました。えーこの事件に関しては新しい情報が入り次第、番組内でもお伝えしていこうと思います。」

メインのアナウンサーは情報を整理し、席を並べるコメンテーターにたった今入ったニュースについての意見を求めて次のクリスマス特集へと移った。

―おい、ちょっと待てよ。ここ(金沢)の事じゃねぇかこの事件…。

佐竹は自分の住んでいる地方都市で、全国ネットの情報番組に割り込んで報道される事件が起こったことに驚きを隠せなかった。
しかも事件現場である熨子山は佐竹が住むアパートから車で15分程の距離にあり、そう遠くない。

「気持ち悪いな…。」

普段と全く変わらない平和な休日が、たった今伝えられた情報によって佐竹をえも言われぬ不気味な空気で覆った。しかしそれはしばらくして無くなった。テレビというフィルターを通して生成され伝わってくる情報はどこか遠いところの情報のように感じられる。
情報が一方的であるためだろうか。確かに身近で起こった事件であるという認識はあるが実感が湧かない。
佐竹はいつもの休日と同じくトーストとコーヒーを用意した。


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2019年03月28日

6,12月20日 日曜日 0時58分 金沢市北部




金沢市北部の学生街。表通りから少し裏に入ったところにアパートが何棟か建っている。この中に築8年、地上二階建て、1LDKの部屋が各階にそれぞれ二室ずつ用意されているアパートがある。佐竹は代行運転を利用して自分のアパートまでたどり着き、二階にある自分の部屋に向かって階段を登った。
先ほどまで佐竹は勤務先である金沢銀行駅前支店の後輩の結婚式に参加していた。二次会にも参加し、その酒量はかなりのものだったが彼の足取りはしっかりとしていた。
自分の部屋のドアに設置された郵便受けには新聞紙が突き刺さったままだった。鍵を開け部屋に入り佐竹はそれを抜き取った。特別なことではない。いつものことだ。これから時間があれば復習のために新聞を読む。時間がなければゴミ。基本的に情報は勤務先の新聞かネットで入手できる。そう考えると特に新聞も必要がないのだが、一応社会人としてのたしなみとして購読しているに過ぎない。必要性をあえて挙げるならば、死亡欄で得意先に不幸が無いかの情報を得ることぐらいだった。
部屋の電気をつけると極端に物の少ない彼の部屋が明らかになった。白い壁にかけられた時計の時刻は1時を回ろうとしていた。佐竹は手に持っていた新聞紙と携帯電話をテーブルの上に置いて纏っていたコートを脱ぎ、キッチンでコップ一杯の水を一気に飲み干した。冬の水道水は凍てつく冷たさで、少々の頭痛を覚える。
「36だってのに俺は…。」
誰に言う訳でもなく自然と言葉が出た。と、同時にため息が出た。
スーツを脱ぎ、いつでも眠れる服装になった佐竹はベッドに横になった。彼の視線の先には棚の上にある一枚の写真があった。高校時代の部活動の写真だ。佐竹は高校在学時剣道部に所属。県大会で準優勝の成績を収めた。高校まで何かに打ち込む事を経験した事が無かった佐竹にとって、仲間と苦楽を共に過ごし、ひとつの目標に向かってひたすら挑戦した時間は彼にとって深く印象に残っている。佐竹はしばらく遠くにあるその写真を見つめた。そして深く息をついたあとシーツに顔を埋めた。
このまま眠りについてもかまわない。佐竹は目をつむった。
その時、テーブルの上に置かれた携帯電話のバイブレーションが作動し、意外に大きい振動音が部屋に響いたため佐竹は目を開かざるを得なくなった。
―誰だ、こんな時間に…。
不意を討つ音に不愉快な表情で起き上がり、テーブルの方へ手を伸ばすと、その振動は収まった。このタイミングの悪さに佐竹はますます不愉快になりながらも、誰からのものか確認をするために折り畳まれていたそれを開いた。
液晶画面には『不在着信1件』の文字があった。確認ボタンを押すと見覚えの無い電話番号が表示されていた。名前が表示されていない事から、間違い電話であろうか。いたずらならば非通知でかかってくる。どうせ電話帳には未登録の番号である。佐竹は無視を決め込んで再び横になって眠りについた。



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2019年03月21日

5,12月20日 日曜日 0時23分 警察本部通信指令室




「現場の状況はどうだ。」
一課の捜査員の指示を終えた片倉が通信司令室に乗り込んで来た。
「そろそろ熨子駐在所の人間が通報者に接触する時間です。」
片倉は空席になっている司令室のキャスター付きの椅子を転がして、司令官の傍に座りモニターを覗き込んだ。
「通報から何分や。」
片倉は端的に司令官に質問をする。
「通報時刻は午前0時02分。こちらから指令を出したのが0時16分。正味20分ですか。捜査態勢を整えるために時間がかかっていますが、深夜という状況を加味すれば良いタイムです。」
司令官は冷静である。時々、片倉と会話をしながら、淡々と的確な指示を関係各所に出し続ける。そこに現場から無線が入った。熨子駐在所の鈴木からである。
『たった今通報者と接触。通報者はひどく怯えている様子。応援が到着次第、通報者の保護と同時に現場に向かいたい。』
所轄が現場まで10分の位置にいることを確認した司令官は、頷く片倉を見てとりあえずその場で待機するよう指示を出した。とにかく現場の状況を一刻も早く、正確に掴まなければならないが、先ずは通報者の安全保護を優先しなければならない。
通報から現在に至るまでの流れは迅速だ。仮に大きな事件に発展したとしても、マスコミに初動の不備は指摘されまい。片倉は少し息をついて胸ポケットから携帯電話を取り出した。発信履歴を見ると部長の一色の名前がずらりと並んでいる。ー
―部長は俺を試しているのか?
緊急時に一色と連絡がつかないことはこれまでになかった。
確かに一色は自ら捜査現場に赴いて単独で捜査を行う事があった。しかしその際には、必ず部下である片倉に捜査指揮を一任する旨を伝えてから行動を起こしていた。
しかし今回は違う。はじめてのケースだ。
緊急時に上司と連絡がつかないことは組織として極めてマズい。今のこの状態を誰かが気づき上層部に報告でもされれば、上司の行動把握を怠っていたという事で自分に何らかの処分が下るかもしれない。
―今までこっちはあんたの鬼捜査につき合わされて振り回されてきたっちゅうげんに、肝心な時の連絡ミスなんかでお咎めなんてごめんやぞ。
片倉は携帯をしまって両腕を組み、右足を小刻みに動かして自分の腕時計を睨め続けた。
『こちら北署刑事課の岡田です。たった今、通報者を保護。これより現場に向かう。』
片倉は頷き、それを見た司令官は「了解」とだけ応えた。
「本部の人員は何分後に現着する。」
「正味15分といったところですかね。」
―まさか部長は先に現着しているわけじゃねぇやろうな。
「念のために聞くが。」
「どうしました。」
「通信指令室は全ての県警関係車輌の位置関係を把握しとるんやったな。」
「はい。ですが私用車はこの限りではありませんよ。」
片倉はしばらく考えた。
昨年、一色は刑事部の部長になってから、非常時に管理者と連絡がとれない事態を避けるために、部長級以上の私用車にもGPSを搭載して不測の事態に備えるように本部長に働きかけていた。しかし、プライバシーの問題を解決できていないため、その計画は県警本部内において頓挫していた。
―確か部長はデモとして自分の車にGPSを付けとったような。
片倉は司令官の耳元に顔を寄せた。
「おい。」
「何でしょうか。」
「部長がデモで載せた私用車のGPSは有効か。」
「有効だと思いますがまだ本採用されたシステムではありません。ですから運用はできません。」
―この堅物が。
片倉は力を込めて奥歯を噛み締めた。
「いいから部長の私用車がどこにおるんか教えてくれ。」
「だめです。」
「一色部長はどこにおる。」
「知りません。刑事部に居られないのですか。」
上司の居所を理由も無く探ろうとする片倉を司令官は不振な目で見た。
『所轄、現着。これより建物に入る。』
現場から無線が入ると指令室に緊張が走った。
片倉はGPSの件はあきらめ、司令官に音声の入力を自分の目の前にある卓上マイクに変更するように指示する。司令官は手元のスイッチャーを手慣れた手つきで操作し片倉に繋いだ。
「本部捜査一課の片倉だ。万が一の場合も考えられる。十分に注意して入れ。」
『了解しました。』
卓上マイクのヘッドの部分を下に向けて折り曲げ、片倉は椅子の背もたれに身を預けた。
―コロシかそれとも心中か。
警察の仕事に優劣は付けたくはないが、この時の片倉は後者の結末を願っていた。無理心中ならば事は大きくはならない。上司と緊急時に連絡が取れなかった点は、警察内部で処理する事ができる。問題は前者の場合だ。殺人事件という重大事件が起こっている時に責任者と連絡が取れないというのは、極めてマズい。
捜査態勢の不備が露見すれば、県民の警察に対するイメージは著しく低下する。ましてや捜査が長期化すればなおさらの事である。
『こちら本部捜査一課。あと5分で現着。』
本部の人員から無線が入ったところで片倉は自分の悶々にひとまず区切りを付け、マイクに口を近づけた。
「現場には所轄の人間が先に入っとる。お前たちも直ちに合流して現場を押さえてくれ。」
『了解。』
ふと現場にいる所轄の鈴木と岡田が気になった。
建物に入ってから3分の時間が経過している。通報から現場である建物は山小屋と聞いている。すぐにも遺体の状況等が報告されても良いものだが、それはまだ無い。
「こちら本部。現場の状況はどうだ。」
反応がない。10秒経過するのを待って、片倉は再び呼びかけようとした。矢先、現場から無線が入った。
『こちら現場。2体の遺体確認。』
その報告の声には力がない。無理もない、この地方都市で一度に複数の遺体を目にする事件はそうそう無い。よってこの手の状況にはあまり免疫は無いである。
片倉は遺体の状況を分かる範囲で報告するように指示した。
『それが…。』
「どうした?」
『顔が無いんです。』
「何?」
『両方とも…顔が無いんです。』
「どういうことや。顔が無いなんて意味が分からんが。」
片倉は怪訝な顔をした。
『顔面を凶器か何かでぐちゃぐちゃにされています。原形をとどめていません。』
岡田の報告に通信指令室は凍りついた。



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2019年03月14日

4,12月20日 日曜日 0時30分 県道熨子山線




熨子町の集落を過ぎて細い車道を猛進して行くと、路肩に一台の軽トラックがアイドリングをしたまま止まっていた。
鈴木は車をその後ろに止めた。
軽トラックの運転席に男らしき人影が確認できた。おそらくこの男が通報者なのだろう。鈴木はエンジンを切り、助手席に備え付けていた懐中電灯を手に取ってパトカーを降りた。
「こんばんは、警察です。」
白い吐息を出しながら、彼は運転席側の窓をノックした。しかし、反応がない。続けて鈴木は懐中電灯で運転席を照らした。そこには熨子町集落の住人のひとり、塩島一郎が確認できた。
畑仕事や犬の散歩、冬にはスキーに出かけたりするせいもあって、七十歳とは思えぬ若さを保っている塩島の表情には生気が無かった。彼は一点を見つめ、体を小刻みに動かしていた。
「塩島さん、大丈夫け!」
鈴木はドアノブに手をかけた。しかしそれはロックされている。
「塩島さん!鈴木です!駐在所の鈴木です!」
鈴木はさらに激しくドアを叩いた。運転席に座っている塩島がこちらの方をゆっくりと見た。
「塩島さん…ドアを開けてください。」
塩島は震える手で運転席側のロックを解除した。すぐさま鈴木はドアを開けた。車内のエアコンは全開でかかっていたのか、熱風が車外に漏れて来た。しかしそのような車内温度にも関わらず塩島の震えは止まらない。
―ただ事ではない。
「塩島さん。さっき警察に通報したけ。」
鈴木は塩島に話かけた。
彼は小刻みに震える体全体を使って頷いた。
「塩島さんが見たっちゅう山小屋って、どこにあるんかね。」
塩島はかすかに震えた声で言葉を発した。
「置いていかんでくれ…。」
両手で顔を覆い、極寒の地に全裸で放り出されたかのごとく、体を大きく震えさせた。
この男は凄まじい恐怖に襲われていて、とても冷静に物事を話せる状況に無い。鈴木はそう判断した。
―こんな状態なのによく警察に通報したものだ。
ひとまず彼に安心感を与え、現在最低限聞かなければならないことだけを聞き出そう。そう鈴木は判断した。
「塩島さん。大丈夫や。もうちょっとしたら本部から応援来るさかい、心配しせんでもいいよ。」
塩島は自分の顔を覆っている指の隙間から鈴木の顔をみた。
「ほんで、その小屋ってどうやっていけば良いんけ。応援が来たら確認しに行くさかい。」
塩島は未だ震える右手でもって暗闇を指した。彼の指す先の舗装されていない濡れた地面にはタイヤ痕が残っていた。その土の生々しさから推察して、塩島が自分の車でこの先にあると思われる小屋へ行ったのだろう。
「この先ねんね。」
鈴木が確認すると彼は小さく頷いた。
「ここからその小屋まで大分時間かかるけ。」
塩島は僅かに首を振る。
鈴木はパトカーに戻り、通信指令室へ無線を繋いだ。
「こちら熨子駐在所の鈴木です。たった今通報者と接触。通報者はひどく怯えている様子。応援が到着次第、通報者の保護と同時に現場に向かいたい。」
『了解。間もなく所轄の捜査員が到着する。通報者の保護をされたい。』
10分後、2台のパトカーが到着した。1台につき2名の合計4名の応援だ。
「お疲れさまです。北署の刑事課、警部補の岡田です。」
捜査員のひとりが鈴木の方へ寄って来て敬礼をした。
「熨子駐在所巡査部長の鈴木です。」
鈴木も応えるように敬礼し、挨拶をする。
「現場がどこなのかは聞き出しましたが、通報者がひどく怯えています。先ずは彼の保護が先決かと思います。」
鈴木は岡田に提案した。
「了解。ウチの若い者に保護させます。」
そう言うと岡田は捜査員の2人に通報者をパトカーの後部座席に乗せるよう指示した。そして携帯無線機で通信指令室に無線を繋いだ。
「こちら北署刑事第一課の岡田です。たった今、通報者を保護。これより現場に向かう。」
『了解。』
「では鈴木巡査部長。行きましょう。」
岡田はパトカーの後部座席にあるコートを見に纏い、トランクに入っていた懐中電灯を取り出した。
「通報者によると、この小道の先に現場があるようです。」
鈴木は小道に光を当てた。
二人はタイヤ痕が残る小道の先を歩き出した。先頭の鈴木は道の先を照らし、後方の岡田は足元を照らす。小屋への道は車の轍によってかろうじて残っているような悪路であった。懐中電灯が照らす先以外は漆黒の闇。聞こえてくるのは自分たちの足音のみ。深夜の山の冷たい空気はコートに包まれた体をちくりちくりと刺してくる。薄気味悪い小道を5分程進んだだろうか。2人は少し開けた場所に出た。
「あれか。」
10メートル先に二間半ほどの間口の小屋が建っている。奥行きもありそうだ。小屋の傍にはセダン型の乗用車、そして一台の原動機付自転車が止まっている。二人は息を殺して慎重に小屋に近づいた。
口の中に溜まってきた唾液を飲み込むとその僅かな音さえ、この開けた場所に響いてしまうのではないと思う程、この場は静寂に包まれている。
小屋は木造のものであった。屋根はトタンで葺いてある。随分と前からこの場所にあるような風化具合である。小屋を形成する朽ちた木材を間近で照らすと、以前はペンキかなにかで白く塗装されていただろうと思われる痕跡が確認できた。
鈴木は入口であると思われる引き戸を懐中電灯で照らした。握りこぶしひとつ分程開いている引き戸。えも言われぬ緊張感が彼らを襲った。鈴木の一挙手一投足を傍で見ている岡田は、その張りつめた雰囲気に飲み込まれないように注意しながら無線を入れた。
「所轄、現着。これより建物に入る。」
岡田がそう言うと、鈴木は引き戸に手をかけた。二人ともお互いの鼓動が聞こえるかと思える程、自己の心臓が激しく活動している。
『本部捜査一課の片倉だ。万が一の場合も考えられる。十分に注意して入れ。』
「了解しました。」岡田は鈴木の目を見て合図した。
鈴木は頷き勢い良く引き戸を開いた。
すぐさま二人は懐中電灯で暗闇の内部を照らす。直線的な光の線が室内を探る。二本の光の先が一点に集中し動きを止めた。そこで目に飛び込んで来た状況に二人は愕然とした。
「なんだ…これは…。」



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2019年03月07日

3,12月20日 日曜日 0時03分 県警察本部刑事部捜査二課




課長補佐の古田は捜査資料に目を通していた。
短く刈り込んだ髪。顔に深く刻み込まれた皺。タバコのヤニで黄色くなった歯。ゴツゴツとした岩のような手。
一見ヤクザかといった荒削りの風貌の男だが、彼が属しているのは会社犯罪や贈収賄、詐欺といった知能犯を取り扱う捜査二課。その風貌から連想される部署とは真逆の非常に神経と頭を使う部署である。
その道30年のベテラン刑事で、警察内では関わった事件は執念で必ず解決するところから「スッポン」の異名をとっていた。
仕事一筋でそれが趣味でもある古田にとって深夜まで捜査資料に目を通す事は全く苦にならない。彼はひとつひとつ丹念に捜査資料をじっくり分析していた。
ふと壁に掛かっている時計を見ると時刻は0時を回っていた。
「ちょっと休憩してくるわ。」
同じ部署の当直勤務である部下にそう言うと、古田は喫煙所に向かった。
―一課が騒がしい。
喫煙所へ向かう途中、いつもはこの時間には静かな捜査一課に捜査員が数名、慌ただしく入室して行く様子を横目で見て、彼は何かを感じた。
古田は深夜の喫煙所がお気に入りだった。窓の外から見える金沢の夜景と静寂。無糖の缶コーヒーと煙草のベストマッチが彼の脳に安らぎを与えてくれる。ひと時の休息が捜査への更なる闘志をみなぎらせてくれた。
煙草に火をつけ今までの捜査を自分なりに頭の中で整理しようとした時に、捜査一課課長の片倉がやって来た。
「おう、トシさん。」
片倉は自分より5歳年上の古田に挨拶をした。役職は古田より上であるが、片倉と古田は旧知の仲であるため、二人の間には堅苦しい上下関係は無いに等しい。
「どうした、何かあったんか。」
古田は意外そうな声で片倉に言った。
「ホトケさん二体発見。ということで今来たところ。」
「どこで。」
「熨子山。」
「心中か。」
「わからん。とにかくすぐ現場に捜査員を派遣しないと。今はその前に気合いを入れる一服。」
そう言うと片倉は胸から煙草を取り出し、火をつけた。
「また部長の鬼捜査やな…。」
苦笑いを浮かべて古田は缶コーヒーの蓋を開け、それに口をつけた。
「ああ、そうだな。」
片倉と刑事部長の一色は反りが合わなかった。
一色は東京の国立大学から国家公務員一種試験をパスし、警察庁に入庁したいわゆる警察キャリア。ここ県警察本部には4年前に配属となった。
当初は捜査二課の課長であったが、昨年警視から警視正となり捜査一課、二課、組織犯罪対策課、鑑識課を束ねる刑事部長となった。
年齢は三十六歳であり、その昇進スピードは早い方である。
しかし、彼の捜査手法には多くの問題点があり、その強引さに対しては警察内部でも批判があった。
法律上問題であるおとり捜査を行ったり、時折単身で現場を押さえるような行動があった。
管理者という立場であるにもかかわらず現場に直接介入するし、スタンドプレーも目立つ。こんな上司がいては現場捜査員から批判が出てもおかしくない。
そんな問題を抱えるキャリアも結果は出していた。
捜査二課は知能犯との戦いである。知能犯というものはプライドが高い人間が多い。
一色はこれらの参考人や被疑者の取り調べに自ら臨むことがあった。その彼の取り調べは見事だった。決して直接的な言動は使わない。遠まわしにじわじわと攻める。まるで真綿で首を絞めるように。ときには柔らかく包み込むように、時には非情とも思える冷淡な言動。この硬軟合わせた彼の巧みな取り調べに、知能犯の黙秘の壁は崩壊させられた。
理論武装をした知能犯の口を割らせるということは、彼らの最も拠り所とするところを無効化させること。それは彼らの人格自体を崩壊させることにもつながる。
彼の取り調べにかかった者たちは皆、落ちた。
取り調べを終えたそれらの者たちの表情は抜け殻のようになり、精神障害に陥った者さえいた。
結果は手段に勝るという捜査。ときには被疑者の人格さえも崩壊せしめる取り調べ。
このような一色の捜査手法を県警では「鬼捜査」と呼んだ。
キャリア警察の暴走。これが事実上黙認されているには理由があった。捜査二課の検挙率が一色の着任後、飛躍的にアップしたのである。
組織内部の不協和音と検挙実績の向上。どちらが警察にとって大事かといえば考えるまでもなく後者だ。
「鬼捜査」の存在は決して外に出ることはなかった。
実績を積み、捜査二課課長から刑事部長に昇進した一色は「鬼捜査」を刑事部全体に適用した。
二課の連中はすでに彼のやり方に免疫を持っていたが、一課にはそれが無かった。
警察組織において上司の命令は絶対である。しかし一色の「鬼捜査」によって一課の不協和音がどんどん拡がっていく。この状態を見るに見かねた片倉は折を見て彼に意見した。
だが彼の意見は取り合ってくれる事は無かった。
一色が刑事部長になって三ヶ月後、片倉は「もうついていけない」と言うことで古田に警察を辞めたいと相談を持ちかけた。
しかし慰留され、彼は現在も一色の下で働いている。
片倉は一色のやり方を認めた訳ではなかった。しかし彼が刑事部長になり一年経った現在において、捜査一課の殺人や強盗などの重大事件の検挙率は100%。それまでの実績は70%であり、彼の実績については認めざるを得ない状況だった。また、彼の捜査方法に対する市民からの苦情等も受け付けていない。不満が出ているのはもっぱら組織内部からのものだけだった。
「どうした片倉。さっきから携帯ばっかりいじって。」
古田は自分の腕時計に目をやった。時刻は午前0時10分。
家族や友人に電話をかけるような時間でもない。喫煙所に入ってきてから、携帯ばかり気にしている片倉を不審に思った古田は彼に声をかけた。
「トシさん。マズいんや…。」
「ん?」
「部長と連絡がとれんげん。」
「…え?」
「さっから何回も携帯に電話しとるんやけど、電源が切られとるんや。」
「どういう事ぃや。」
片倉は首を横に振った。
「お得意のスタンドプレーが始まったかもしれんな…。」
とにかく通報が入っているのだから、初動は迅速にせねばならない。片倉はそう言うと一課へ早足で向かって行った。



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2019年02月28日

2,12月20日 日曜日 0時15分 熨子駐在所




熨子駐在所の鈴木はこの時間にはまだ就寝していなかった。
自宅から持ち出して来た古ぼけたアルバムを手に取って、彼はその一ページをゆっくりとめくり目を細めていた。
五日後に控えたクリスマスには娘の洋子が東京から帰郷する。自分に紹介したい男がいるそうだ。妻はどういう男かは知っている。
一週間前、妻の清美がこの駐在所を訪れて娘がつき合っている男について話をしてくれた。
「洋子と同じ会社に勤めている、誠実そうな方よ。」
二人はつき合って三年。娘が男とつき合っている事を鈴木は全く知らなかった。
現場での仕事に燃え、担当地域の治安の安定が鈴木にとっては一番の関心事だった。道案内から始まり、警邏活動、ときには窃盗犯や痴漢の確保など、警察組織の末端に所属しながら彼はその自分に課せられた任務に誇りを持っていた。
―自分は警察官としての仕事の事しか頭に無かった。
今まで家庭の事に無関心だったと言われても仕方が無い。家族の事は清美に任せてあるつもりだったが、娘の縁談を自分に知らせるときの妻の寂しそうな表情を見て、初めて自分の家庭に対する無責任さに気がついた。
思い起こせば洋子の事は何も知らない。大学までは地元の学校に通わせていたので、ある程度の事は把握をしていたつもりだったが、基本的に鈴木は仕事の虫。洋子の事について妻から相談されたりもしたが、正直なところ煩わしいとさえ思っていた。
洋子が東京の方へ就職してからというもの、家庭の事は清美に任せるという考えが災いしたか、自分と洋子とは全くの疎遠である。洋子の情報は清美経由で聞いているつもりだったが、記憶に残っていない。彼女が銀行に勤めているとは聞いていたがその銀行名も、現在洋子が26歳である事も、正直忘れていた。
―済まなかった。
気がつけば鈴木自身は一年後には定年に達する。同期の人間は皆、警部や警部補に昇進し、退官を向かえようとしている。片や鈴木は巡査部長のままだった。鈴木は地域に密着した現場での仕事が好きでたまらなかった。そのため彼は高校卒業後警察に入ってから、今日まで昇進試験をあまり積極的に受けなかった。管理職になる事を嫌ったためである。妻からは何度も昇進試験を受けてくれと言われた。しかしその手の要望は無視してきた。今まで家庭を顧みず、自分の好きな仕事だけに人生を捧げてきた。清美の寂しそうな表情を見た時、自分の自己中心的な人生がリセットされた感覚を覚えた。
鈴木の心の中には様々な思いが去来していた。
『本部より関係各署。』
瞬間、鈴木に緊張が走った。アルバムに落としていた目線を部屋の隅に設置された無線機に向ける。
『熨子山山中の小屋より遺体と思われるものを二体発見との通報。所轄は直ちに現場へ急行せよ。』
鈴木の表情が厳しいものに変わった。アルバムを閉じ、急いで無線に口を近づけた。
「こちら熨子駐在所。現場の目印になる情報をお願いします。」
『熨子町の集落からそのまま山頂へと向かう道の途中に通報者がいる模様。』
「了解。向かいます。」
鈴木はそう言うと寝間着姿から制服に着替え駐在所を飛び出し、止めてあるミニパトカーに乗り込んだ。エンジンをかけアクセルを踏み込み勢い良く発進した。熨子町の集落まではここから約五分。熨子町から山頂へと向かう道は一本しか無い。
車に乗ってからも継続的に通信指令室からの指示は出ている。県警本部の対応は素早かった。本部から鑑識を含めた応援が二十名程度出発したようだ。加えて金沢北署の捜査員も投入されて、捜査の体勢を整えつつあるのが無線を通じて伝わって来ていた。二名の遺体が一度に発見される事など、この地方都市では珍しい。普段聞き慣れない言葉が飛び交う無線のやり取りが、その事の重大さを物語っていた。
「事件か心中か。」
彼は誰に言う訳でもなく呟いた。
鈴木はパトカーを手足のように操り、注意深くそして俊敏に県道を駆け抜ける。
―何か妙な胸騒ぎがする。


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2019年02月21日

1,12月20日 日曜日 0時35分 熨子山山頂展望台




眼下には渋い夜景が広がっている。
ここ金沢は藩政期より城下町として栄えた地域。当時の歴史と伝統が今も色濃く残っている街のため、日中は観光都市としての顔を全面的に出す。
観光名所には人が集まり賑やかさを創出する。しかし夜になればそれは一転する。
市内全域は水を打ったような静けさに覆い尽くされる。
その空気の重量感と質感は重く、妖しさを内包している。
間宮はその妖しさに包まれた街を、熨子山から眺めていた。
熨子山は金沢の北東部にある山で、そこから見る夜景は美しかった。
妖しげな空気の中に点在する街の照明群。それと相対するように闇を演出する寺院群や田畑。
対照的なものが絶妙に混ざりあい、陰と陽のおもむきを感じることができる。
熨子山は金沢市街地から車で約三十分の距離にある。市街地から少し離れたところにあるが、整備も行き届いており休日には地元の家族連れが遊びにくるようなところだ。
だがここは夜になると交通量は極端に少なくなり、外部からの侵入者を拒むかのような空気をもっていた。
十二月。
日が沈むと冷えきった空気が肌を刺す季節だ。
熨子山の山頂にある展望台で間宮は静寂に包まれていた。
そっと彼に身を寄せる者がいた。彼と同じ会社に勤務する桐本だ。
今日この時間にここを訪れる者は彼等以外になかった。
彼女の頭を撫でながら、間宮は眼下の金沢の夜景を眺めた。
麓から幾度か曲線を描いてこの場所に来ることができる。
間宮はここまでの道を市街地から順を追って見ていた。
彼の視線が熨子山の中腹にさしかかったとき複数の赤く明滅するものが登ってくるのが目に止まった。
―パトカー?…そういえば10分程前にもパトランプが見えた。
その光は着実に山を登ってこちらの方に向かってきている。
不審に思った間宮は頃合いを見て、この場から立ち去ろうと考えた。
「由香。」
彼は唐突に桐本を抱きしめた。
「ずっとこうしていたいよ。」
お互いの息遣いと脈打つ音だけが耳に入ってくるほどの静寂。抱きしめ合う中、間宮の鼻腔に入り込んでくる桐本の香りはいつもよりも香しく感じられた。
間宮に覆いかぶさられるように抱きしめられていた桐本の体は小刻みに震えだした。
「ごめん…こんなところに長居させてしまって悪かった。寒かったよね…。」
すると彼女の体の震えが大きくなった。その震えは徐々に大きくなってくる。
「え…?大丈夫?」
思いの外彼女を寒い目に遭わせていたのだろうか。まさかこの寒さで体調でも悪くさせてしまったのだろうか。
それは彼の大きな誤解だった。
桐本は間宮の肩越しに見ていた。
向こう側から白いワイシャツを着た男がこちらを凝視しているのを。
その男が赤い血で染まったハンマーを持ってこちらにゆっくりと近づいてきているのを。


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2014年03月19日

81 12月24日 木曜日 15時53分 金沢北署

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2014年03月12日

80 12月21日 月曜日 20時09分 河北潟放水路

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2014年03月05日

79 12月21日 月曜日 19時49分 河北潟放水路

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2014年02月26日

78 12月21日 月曜日 19時08分 内灘大橋

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2014年02月19日

77 12月21日 月曜日 19時00分 金沢北署

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2014年02月12日

76 12月21日 月曜日 18時50分 県警本部

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2014年02月05日

75 12月21日 月曜日 18時23分 県警本部

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2014年01月29日

74 12月21日 月曜日 17時40分 金沢銀行金沢駅前支店前

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2014年01月22日

73 12月21日 月曜日 17時10分 田上地区コンビニエンスストア

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2014年01月15日

72 12月21日 月曜日 17時23分 金沢銀行本店

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2014年01月08日

71 12月21日 月曜日 16時58分 金沢北署

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2014年01月01日

70 12月21日 月曜日 15時40分 本多善幸事務所

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2013年12月25日

69  12月21日 月曜日 14時50分 フラワーショップアサフス

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2013年12月18日

68  12月21日 月曜日 15時45分 金沢市街

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2013年12月16日

67 12月21日 月曜日 15時24分 金沢市街

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2013年12月13日

66 12月21日 月曜日 15時35分 ホテルゴールドリーフ

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2013年12月11日

65 12月21日 月曜日 14時55分 ホテルゴールドリーフ

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2013年12月09日

64 12月21日 月曜日 14時22分 金沢銀行本店

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2013年12月06日

63 12月21日 月曜日 13時51分 北上山運動公園駐車場

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2013年12月04日

62 12月21日 月曜日 14時17分 マルホン建設工業

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2013年12月02日

61 12月21日 月曜日 13時10分 熨子山連続殺人事件捜査本部

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2013年11月29日

60 12月21日 月曜日 13時22分 フラワーショップアサフス

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2013年11月27日

59 12月21日 月曜日 13時15分 金沢銀行本店 役員会議室

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2013年11月25日

58 12月21日 月曜日 12時45分 河北潟周辺

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2013年11月22日

57 12月21日 月曜日 12時24分 金沢銀行金沢駅前支店

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2013年11月20日

56 12月21日 月曜日 11時53分 県警本部交通安全部資料室

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2013年11月18日

55 12月21日 月曜日 11時30分 県警本部捜査一課

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2013年11月15日

54 12月21日 月曜日 11時12分 金沢銀行金沢駅前支店

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2013年11月13日

53 12月21日 月曜日 10時22分 熨子山連続殺人事件捜査本部

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2013年11月11日

52 12月21日 月曜日 10時35分 喫茶ドミノ

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2013年11月08日

51 12月21日 月曜日 10時18分 本多善幸事務所前

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2013年11月06日

50 12月21日 月曜日 9時30分 本多善幸事務所

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2013年11月04日

49 3年前 8月3日 水曜日 15時13分 フラワーショップアサフス

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2013年11月01日

48 12月21日 月曜日 9時5分 フラワーショップアサフス

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2013年10月30日

47 12月21日 月曜日 9時56分 喫茶BON

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2013年10月28日

46 12月21日 月曜日 9時05分 金沢銀行金沢駅前支店

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2013年10月25日

45 12月21日 月曜日 9時10分 金沢北署1階

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2013年10月23日

44 12月21日 月曜日 8時45分 県警本部駐車場

ラベル:第五章
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2013年10月21日

43 12月21日 月曜日 8時15分 熨子山連続殺人事件捜査本部

ラベル:第五章
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2013年10月18日

42 12月21日 月曜日 7時45分 金沢銀行金沢駅前支店

ラベル:第五章
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2013年10月16日

41 12月20日 日曜日 21時12分 中華料理 談我

ラベル:第四章
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2013年10月14日

40 12月20日 日曜日 19時32分 古田宅

ラベル:第四章
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2013年10月11日

39 12月20日 日曜日 19時48分 佐竹宅

ラベル:第四章
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2013年10月09日

38 12月20日 日曜日 18時32分 古田宅

ラベル:第四章
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2013年10月07日

37 12月20日 日曜日 18時10分 古田宅

ラベル:第四章
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2013年10月04日

36 12月20日 日曜日 18時28分 県警本部前

ラベル:第四章
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2013年10月02日

35 12月20日 日曜日 17時20分 古田宅

ラベル:第四章
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2013年09月30日

34 12月20日 日曜日 17時30分 フラワーショップアサフス

ラベル:第四章
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2013年09月27日

33 12月20日 日曜日 17時12分 金沢駅

ラベル:第四章
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2013年09月25日

32 12月20日 日曜日 17時03分 金沢駅付近

ラベル:第四章
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2013年09月23日

31 12月20日 日曜日 17時16分 民政党金沢支部

ラベル:第四章
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2013年09月20日

30 12月20日 日曜日 16時50分 金沢市香林坊

ラベル:第四章
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2013年09月18日

29 12月20日 日曜日 16時42分 熨子山連続殺人事件捜査本部

ラベル:第三章
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2013年09月16日

28 12月20日 日曜日 15時48分 県警本部内

ラベル:第三章
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2013年09月13日

27 12月20日 日曜日 15時00分 金沢北高等学校

ラベル:第三章
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2013年09月09日

25 12月20日 日曜日 13時52分 フラワーショップアサフス

ラベル:第三章
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26 12月20日 日曜日 14時25分 七尾市街地

ラベル:第三章
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2013年09月06日

24 12月20日 日曜日 14時05分 佐竹宅

ラベル:第三章
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2013年09月04日

23 12月20日 日曜日 13時08分 熨子山連続殺人事件捜査本部

ラベル:第三章
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2013年09月02日

22 12月20日 日曜日 11時48分 県道熨子山線 熨子町集落周辺

ラベル:第三章
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2013年08月30日

21 12月20日 日曜日 12時22分 熨子駐在所

ラベル:第二章
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2013年08月28日

20 12月20日 日曜日 11時00分 金沢北署「熨子山連続殺人事件捜査本部」

ラベル:第二章
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2013年08月26日

19 12月20日 日曜日 11時52分 喫茶「ドミノ」

ラベル:第二章
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2013年08月23日

18 6月15日 火曜日 15時00分頃 フラワーショップ「アサフス」

ラベル:第二章
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2013年08月21日

17 12月20日 日曜日 11時25分 喫茶「ドミノ」

ラベル:第二章
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2013年08月19日

16 12月20日 日曜日 10時55分 フラワーショップ「アサフス」

ラベル:第二章
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2013年08月16日

15 12月20日 日曜日 10時35分 金沢北署

ラベル:第二章
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2013年08月14日

14 12月20日 日曜日 10時17分 本多善幸事務所

ラベル:第一章
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2013年08月12日

13 12月20日 日曜日 10時21分 フラワーショップ「アサフス」

ラベル:第一章
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2013年08月09日

12 12月20日 日曜日 10時10分 北陸タクシー株式会社駐車場

ラベル:第一章
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2013年08月07日

11 12月20日 日曜日 10時10分 佐竹宅

ラベル:第一章
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2013年08月05日

10 12月20日 日曜日 8時40分 県警察本部本部長室

ラベル:第一章
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