14,12月20日 日曜日 10時17分 本多善幸事務所

14.mp3 「また連絡する。」 そう言うと村上は佐竹との電話を切り自分のデスクに戻った。傍にいる女性が東京の事務所から電話がかかってきている旨を告げたので、村上は保留にしてあった電話に出た。 「はい、村上です。」 「お疲れさまです。村上さん、テレビ見ましたよ。」 「あ、ええ。」 「先生からさっき電話があって、地元で起きた事件なので大変心配しているようでした。村上さんに対応を任せると言ってました。」 ―任せると言われてから動いていたら遅いんだよ。 「いやぁ僕も地元にいて長いんですが、正直こんなひどい事件ははじめてですよ。とりあえず身元が判明している被害者のお宅には、私かこっちの事務所の人間が行くように段取りしています。先生にはご心配なさらないように伝えてください。」 「それにしても警察幹部の犯行と疑われているようですね。今回の事件。」 「ええ、そのようですね。」 「こっちの方じゃ警察庁がぴりぴりしていますよ。何せキャリアですからね、容疑者は。」 村上の頭に一色の顔が浮かんだ。 「キャリアね…。」 「前代未聞の大事件。いったい警察は何やってんだか。」 「確かに。」 「犯人は未だ行方知らず。村上さんも注意してくださいよ。」 電話の内容はどうでも良いものだった。ただ、この電話で世間が容疑者=犯人として扱われている現実を知った。 まだ一色は容疑者である。 犯人は一色であると決まった訳ではないのに、世の中がそう動いている。情報の伝播の早さ…

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13,12月20日 日曜日 10時21分 フラワーショップ「アサフス」

13.mp3 アサフスは金沢市田上の山側環状線沿いにある生花店である。 田上は熨子山の麓にある国立大学を中心とした学生街で、近年開発が進んでいる地区である。赤松剛志はここに生まれ育った。今は二代目社長としてこの店の切り盛りしている。アサフスの創業者である剛志の父は、六年前突然の不慮の事故で他界。当時、京都の大手メーカーに勤務していた赤松はそれをきっかけに妻の綾と一緒にこちらに戻ってきた。当時は花屋の仕事について無知に等しかったのだが、最近は同業の連中に板についてきたとなんとか認められるようになってきた。 赤松は今日の晩に執り行われる葬儀用の花の手配に追われていた。花屋にとって葬儀会社や結婚式場は上得意先である。そのためミスは許されない。赤松は電話で得意先と何度も確認をし、飾り付けをした花に誤りが無いか入念にチェックした。 継続的に大口の発注が出るこれらの会社を赤松は自分でコンスタントに開拓している。そのためアサフスはこの不況時においても仕事量は増えており、そんな中で赤松は忙殺されていた。 通帳の記帳で銀行に行っていた妻の綾が足早に店に戻ってきた。傘をたたみダウンジャケットについた雨の雫を払ってブーツを脱いだ。 「ただいま…。」 「お疲れさま。銀行混んどったけ?」 綾の顔も見ずに赤松は伝票を手書きで起票しながら答えた。 「綾?」 返事が無いことに気がついた赤松は手を止めて彼女の方を見た。 綾は赤松と目を合わさず、カバンを金庫にしまった。 「…

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