24,12月20日 日曜日 14時05分 佐竹宅

24.mp3 アサフスで購入した花が入った箱を手にして自宅に帰ってきた佐竹は、それをダイニングテーブルの上に置いた。 花が入った箱を丁寧に開封すると子豚のかたちの鉢に三種類の花が奇麗に収まっていた。 佐竹は花に関する知識は持ち合わせていない。だから、それらの花がどういった種類のものなのか分からない。彼の部屋には植物の類いは一切なかった。あるのは雑誌書類、パソコン、テレビ、その他家電、家具といったもの。この実用性のみを追求した部屋に植物が加わるのは異色であった。 だがそう言った環境だからこそ、花の存在感は大きかった。 テーブルの端に置かれたノートパソコンを開き、「12月 花」で検索をかける。そして上位に表示されたサイトを見た。眼の前の花とサイトを見比べて佐竹は子豚の鉢に収められているのは黄水仙、雪ノ下、プリムラである事を知った。 ーへぇ。そんな名前なのか、これ。 佐竹は花の説明と合わせて書かれている花言葉に目をやった。 黄水仙(キズイセン) 愛にこたえて 雪ノ下 切実な愛情 プリムラ 永続的な愛情 全ての花言葉に愛という言葉が入っている。それに気がついた佐竹は少し熱くなった。 ふらっと訪れた一見客。花をくれと言ったら愛があふれる花を提供された。もしやあの山内という女性、こちらに気があるのか?などと自分にとって非常に都合のいい解釈をしたのである。 しかしよく考えてみれば、この時期に花をプレゼントする状況というものは限られてくる。店に飾ってあ…

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25,12月20日 日曜日 13時52分 フラワーショップアサフス

25.mp3 外を見ると先ほどまで振っていた雪は止んでいた。 アサフスに面した山側環状線では、断続的に何台ものパトカーが熨子山方面へ向かっていた。ついさっきも機動隊の車が走っていった。異様な光景だ。 何か事件に展開があったのだろうかと赤松はテレビをつけた。しかし事件の続報を報じる局はなかった。サスペンスドラマやバラエティ番組の再放送、テレビショッピング等、日曜の日常がそこにあった。テレビのスイッチを切った赤松は店内の時計を見た。 時刻は13時52分。15時頃には葬儀会場の方へ行って、飾り付けを始めなければならない。 ―もうしばらくしたら、出んとな…。 心の中でそう呟いた赤松は、ふさぎ込んだ綾がいる二階の寝室へ向かった。彼女はベッドの中に潜り込んでいた。 「綾。」 返事が無い。 赤松は彼女のそばに寄って、再び声をかけた。しかし返事が無い。彼は返事を期待せずに話しかけた。 「今日は葬儀会場に美紀と行ってくる。…辛いと思うけど、店番頼めっかな。」 綾はベッドの中でごそごそと動いて、返事のようなものをした。 ―だめか。仕方が無い。母さんに頼もう。 赤松は静かに寝室のドアを締めて階段を下りたところにある和室の襖を開けた。老眼鏡を掛けた文子が新聞を広げて読んでいた。 「母さん。」 「何だい。」 「ごめんやけど、店番頼めっかな。」 文子は新聞紙に目を落としたまま赤松に答えた。 「いいけど、綾さんはどうしたんけ。」 「あ…

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