30,12月20日 日曜日 16時50分 金沢市香林坊

30.mp3 石川の流行と活気の集積地である香林坊に佐竹はいた。 クリスマスという時期はだれかに何かをプレゼントする時期。ただそう言う理由だけで先ほどまで女性に人気のプレゼントについて調べていた。 ネットが教えてくれたのは彼女らがもらって嬉しいプレゼント第一位は指輪だということ。 彼氏や意中の人から貰うという前提があるのだが…。 ほんの数時間前に佐竹はアサフスで山内美紀という女性に出会った。彼はこの女性に一方的に惹かれた。 ついさっき初めて会って、ひと言言葉を交わしただけの関係。こんな関係性で貴金属類のような高価なプレゼントを渡すのは相手にとって押し付けがましく、重い。嫌われる事てきめんである。バッグや財布等といったものも同じだ。 その他に何か気の利いた良いものはないかと佐竹はこの香林坊に来たのだが、ヒントは得られなかった。 つまり佐竹にとってそういったプレゼントを渡すのは時期尚早であるという事である。 香林坊にきてようやくその事に気づいた彼は、クリスマスを控えて活気づく街を眺めながら歩いていた。 一軒の洋菓子店の前を通りがかった。古くからあるような店構えで、若年層や最近の流行に媚びる様子は見受けられない。 「洋菓子・ケーキ」と飾りっけのない丸ゴシック体のような書体をペンキかなにかで直に書いた様な看板がかけられていた。 ―せっかくだからケーキでも買って帰るか。 そう思って佐竹はその洋菓子店に入った。 店には誰もいなかった。店内は外観とは違…

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29,12月20日 日曜日 16時42分 熨子山連続殺人事件捜査本部

29.mp3 「大変です。」 ひとりの捜査員が血相を変えて勢い良く捜査本部に入ってきた。 「何だ。手がかりが見つかったか。」 自分の頭の中をツリーのように書き出したホワイトボードと向かい合って座っている松永は右手に持ったマーカーをくるくると回しながら、ぶっきらぼうに言った。 「いえ、新たに被害者が出ました。」 松永の手が止まった。 「何だと。」 「先ほど七尾中署から連絡があり、顔面を鈍器のようなもので複数回殴打された遺体を発見とのことです。」 「顔面をか。」 「はい。死因と身元を特定するために、現在、金沢の石川大学医学部付属病院へ遺体を搬送中とのことです。」 「いつ到着予定だ。」 「18時半ごろです。」 「詳しい犯行現場は。」 「七尾市街地のとあるアパートの一室だそうです。」 「第一発見者は。」 「分かりません。電話での通報です。『人が死んでいる』と言って一方的に電話を切ったそうです。男の声だったようです。」 松永はゆっくりと立ち上がって拳を強く握りしめた。そしてその拳を目の前のホワイトボードめがけて叩き付けた。 ―奴だ。一色が通報したに違いない。 「くそっ!!」 捜査本部の捜査員たちは手を止めて、松永の方を見た。 「矢継ぎ早にコロシか。そうか、捜査を攪乱するつもりだな。おもしろい。やれるもんならやってみろ。お前がコロシをすればする程、手がかりは多くなる。」 松永はホワイトボードに貼付けてある一色の顔写…

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28,12月20日 日曜日 15時48分 県警本部内

28.mp3 「あぁトシさんか。捜査の方は進んでるか。あのな、未明の遺体の身元が分かった。メモとれるか。」 「はい大丈夫です。控えられます。」 「ひとりは穴山和也23才。住所は銚子。もうひとりは井上昌夫これまた23才。住所は土清水だ。」 「穴山と井上…。」 古田の反応にかなりの間があった。気になった本部長の朝倉はそれについて問いかけた。 「どうした、トシさん。」 「…本部長。」 「何だ。」 「申し訳ございません。」 「は?」 「私、本部長に報告しておりませんでした。」 「トシさん。俺はあんたの言ってることがよく分からんが。」 「その名前、知っています。」 「あぁ、もう知っていたか。」 「いえ、違います。その男らの名前は三年前から知っています。」 刑事部の一角に設けられた来客用のスペースにあるソファに腰をかけ、そこに配された固定電話から電話をしていた朝倉は、自分と向かい合って座っている片倉の方を見て動きを止めた。 「なんだと。」 片倉は朝倉の表情を見て何か重要な情報が電話の向こう側からもたらされそうなのを察し、とっさに電話のスピーカボタンを押した。 「その二人はレイプ犯です。三年前、当時二課の課長だった一色の交際相手を強姦したと思われる男たちです。」 朝倉と片倉は驚きの表情でお互いの顔を見合った。 「そんな話、こっちまで上がっていないぞ…。」 「本部長、この件は事件になっておらんのです。」 「まさか…親告されていないか…

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27,12月20日 日曜日 15時00分 金沢北高等学校

27.mp3 金沢市北部の熨子山麓に位置する金沢北高は、文武両道を校訓とした厳格な校風の私立高校である。 どこの学校にもありそうな校訓であるが、ここはを堅実に実践し、その成果を挙げていた。 日本で最も偏差値が高いと言われる東京第一大学に、毎年卒業生を複数名送り込み、片やインターハイに出場する程の実力をもった部活動も数多く存在する。 標語だけが一人歩きするような学校ではなかった。 金沢北高では挨拶、身なりなどの規律面で校則に反したことがあれば、厳しく処分される。 また、先生や先輩の指示は絶対であり、それに背いた者には容赦ない制裁が科せられることとなっている。 このような昔ながらの軍隊的な校風にも関わらず、結果として実績を出しているので、人々はその校風を公には批判しなかった。 だが、近年ゆとり教育なるものが国の施策として採用されてから、保守一本の北高の校風を嫌ってか、受験生やその親たちがこの高校を敬遠するようになってきており、その影響で北高は厳しい経営状況にあった。 今日は日曜日だというのに、校舎に活気があった。 職員のものと思われる自動車も複数止まっている。きっと生徒の部活を監督するために休日でも出勤しているのだろう。 「すいません。誰かおられますか。」 正面玄関につけられたインターホンに向かって、古田はぼそぼそと声を発した。 「警察です。ちょっとお時間いただけませんか。どなたでも結構です。」 しばらくして「どうぞ。」と言う声が聞こえ、正面玄関…

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