34,12月20日 日曜日 17時30分 フラワーショップアサフス
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開発が進んでいるとは言え熨子山の麓に位置する田上は、金沢の中でも雪深い地区であった。車の窓から外を眺めるとアサフスのある一帯は一面銀世界となっていた。
アイドリングしたままの車内にいる佐竹はアサフスに入店する機会を伺っていた。駐車場には彼の他に1台、客のものと思し召しき車両が止まっていた。
客が店を離れるのを待ちながら、ふと彼は思った。
ーさっきもこの店に来て、今またここに来るなんて不自然じゃないか?
冷静になって考えて見れば、佐竹のこの気づきは至極当然のこと。
先程は旧友に会いに来たついでに、社交辞令的に花を購入した。
その理由は対応してくれた女性店員があまりにも魅力的であったためだ。
彼女に接近するきっかけを得ただけで急に馴れ馴れしく接しようというのは不自然極まりない。
不自然な言動はかえって相手に疑念を抱かせることになる。
それにアサフスは桐本由香の死をうけて、日常を保っている状態ではない。
こんな時に手土産持って、再度お伺いというのは空気を読めない行動の最たるものではないか。
先程と同じく客がいなくなるのを見計らって店に入ろうとしたが、ここで佐竹は浮き足立っている自分と向きあって立ち止まった。
功を焦るあまり必敗の地へ誘われ、見事討ち取られた先人たちの姿が、ふと彼の脳裏に浮かんだ。
ー焦るな
佐竹は自分に言い聞かせた。しかし一方で自分の行動を擁護する自分がいることにも気づく。
兵法に「天地人」という言葉がある…