35,12月20日 日曜日 17時20分 古田宅

35.mp3 県警本部から車で10分離れた金沢駅の近くに古田が住むアパートがあった。 築15年。古田は離婚後、この木造二階建ての質素な作りのアパートに引っ越してきた。 2DK、畳式の間取りは、古田ひとりが生活するには充分のスペースである。 このうちの一部屋は古田の趣味でもある仕事部屋に割り当てられている。 捜査に関する資料を外部に持ち出すことは禁じられているが、個人的に書き留めたメモ類であるとして古田はそれらを自宅に保管していた。 無論このメモを見ることができる者は彼以外にない。 古田のメモ魔ぶりは県警内部の一部では有名だった。 聴取する古田の手には必ずメモ帳があり、話し手の一言一句も逃さぬように書き留めた。捜査に対する執念深さもそうだが、このメモ魔ぶりが彼をスッポンの異名を持たせる所以でもあろう。古田は部屋に吊り下げられた電灯のひもを引っ張ってその部屋の電気をつけた。 「こらぁすげぇわ。」 灯りによって明らかになった室内の畳に散乱するメモ帳やノートの量に片倉は立ちつくして驚嘆した。 「トシさん。これ、どれから手ぇ付ければいいんや。」 片倉は半ばあきらめ口調で古田にいった。 「先ずは今回のガイシャから行ってみようか。」 そう言うと古田は畳の上にどっかと腰をおろし、一枚の分厚いノートを片倉に差し出した。ノートの表紙には7月備忘と記されている。古田のメモは今まで誰も読んだことがない。門外不出の捜査資料だった。片倉と古田は旧知の仲ではあるが…

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