43,12月21日 月曜日 8時15分 熨子山連続殺人事件捜査本部

43.mp3 昨日開設されたこの捜査本部には捜査員が始終詰めている状況だった。 松永は捜査本部に入ってからというもの、一睡もしていない。流石に彼の顔に疲労がにじみ出てきていた。 犯人の確保を最優先した検問体制を取るも、めぼしい情報は松永の元には入ってきていなかった。 そんな中、一人の捜査員が気にかかる箇所があるとして、熨子山の検問状況報告書を持って松永と向き合った。 「どうした。」 「昨日の熨子山ですが、一点だけ気になる箇所があるのです。」 「言ってみろ。」 捜査員は資料を松永の前に広げた。そこには熨子山の検問地点を通過した人物のリストが並んでいた。 「ここです。」 捜査員はその中の一人の人物名を指した。 「村上隆二…」 「ええ、本多善幸議員の秘書です。」 疲れ眼の松永の目に鋭さが戻った。 「これがどうかしたか。」 「有力者の秘書ということで、ちょっと気にかかったのです。」 「それで。」 「私の方で現場に聞いてみたところ、富山県の高岡の方で党の会合があるということで、この道を利用したそうです。確かにこの県道熨子山線は金沢から高岡までの最短ルートでした。しかしこちらから民政党高岡支部へ何の会合があるかと聞いたところ、そのような会合は無いとのことだったのです。また、この村上という男は高岡支部へ顔を出していません。」 松永はリストに書かれている検問時刻を見た。 「昨日の11時50分か…。」 「理事官が山狩りを指示され、13時…

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42,12月21日 月曜日 7時45分 金沢銀行金沢駅前支店

42.mp3 支店長の山県を前にして、20名いる行員が二列横隊で並んでいる。支店長代理の佐竹はその中央に居た。 山県は先週の総括、そして今週の動きについて自分の考えを述べる。彼の話は簡潔だった。 今期の金沢駅前支店の預貸金の実績は順調だ。今後はその中身、すなわち不良な債権を処理するべく行動をして行って欲しいとのことだ。そして土曜日に結婚をした服部を指名し、職員を前に簡単なスピーチをさせた。軽くジョークを挟んだ内容に、週明け月曜日の駅前支店の重たい雰囲気は和んだ。 結びに山県は熨子山連続殺人事件を引き合いに出して、年末であるため、銀行としても特別警戒体制をとって万が一に備えよと指示を出し、朝礼は終了した。 「次長、代理ちょっと。」 話し終えた山県が佐竹と次長の橘に向かって手招きをした。山県と二人はそのまま店の奥にある応接室へ入った。 「土曜日はご苦労さん。」 応接室のソファに深く腰をかけ、山県は煙草に火をつけた。 「支店長もお疲れ様でした。」 次長の橘はそういって山県に続くように煙草をくわえた。佐竹は橘の横に座って二人のやり取りを聞くスタンスを取った。 金沢銀行は全店禁煙である。しかし応接室だけは違う。客をもてなすという位置づけで九谷焼の灰皿が配されていた。 ヘビースモーカーである山県にとってはお堅い仕事場の唯一の心の拠り所でもあった。無論この応接室での喫煙が職員全員に許されている訳ではない。山県と一緒にこの部屋に入るときだけに許される行為だった。…

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41,12月20日 日曜日 21時12分 中華料理 談我

41.mp3 金沢のオフィス街南町。その裏通りから一本横に逸れた場所に談我はあった。 このあたりは金沢の金融機関が軒を並べており、談我はこれらの業界関係者の御用達となっていた。 創業20年。外観は古ぼけたよくある近所の中華料理屋の体であるが、その客足は途絶えたことはない。 日中はこの南町を本拠とし、金融機関たちは鎬を削る競争を繰り広げている。 しかしそれは食を楽しみ、酒を飲む場である談我においては関係がなくなる。 背広という戦闘服を纏った男達が日中の気忙しさから解放され、身も心も開放的になり同業同士の情報交換を行う場所として談我は利用されていた。 しかし今日は日曜日。金融関係者の姿は見受けられなかった。 「マスター、もう一本もらえる。」 店のカウンター席に座り店主と向い合って、銚子の首の部分を指でつまんで、ぶらぶらとさせている男がいた。 「村上さん、どうしたんですか。」 「あん?」 「そんなに飲める口でしたっけ?」 そう言いながらも店主は熱燗の準備をしている。 「あのねぇ…俺だって飲まなきゃやってられんのよ…。」 「大丈夫ですか。ろれつが回ってないですよ。」 「ああ、そう。」 ここの名物である餃子に箸をつけて村上はそれを頬張った。 「はい熱燗。」 「ったくよぉ。なんだってんだよぉ。外野がぐちゃぐちゃ言ってんじゃねーよ。」 「仕事のことですか。」 「マスターには関係ない。あんたは立派だ。20年もこの店を切り盛りしとる。」 …

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40,12月20日 日曜日 19時32分 古田宅

40.mp3 古田と片倉は今後の捜査について綿密に打ち合わせをしていた。 一色の高校時代の交友関係を当たるためには、彼らの情報を仕入れねばならない。県警に戻ってそれらを一旦整理したいが、自分たちがこそこそと水面下で動いていることが松永たちに露見すると、厄介なことになる。今日は自分たちの頭の中を整理することとし、明日の日勤時にさりげなくそれらの情報を取得することにした。 「しっかし、なんでまたこんな事件が起こるんや。」 片倉はごろりと畳の上に転がった。 「ほやからあいつは好かんかったんや。ウチを引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、このありさまや。ほんとにキャリアってのは好かんわ。松永も一色も同類や。」 「片倉ァ。ほんなこと今さら言うなや。」 「だから俺はさっさとこの仕事辞めたかったんや。なんか大きな災厄が降りかかってくる気がしたんや。」 「だら。」 「あん?」 「だらやお前。いつからそんな腐った男になったんや。」 「なんやて。」 「いくらでも言ってやるわ。お前、いま県警が置かれとる立場わかっとらんげんろ。前代未聞の信用失墜や。そんなお家の一大事のときに、捜査の最前線の陣頭指揮を執るべき人間が、間違ってもそんなこと口にするんじゃねぇわいや。お前がなんで今捜査一課の課長を拝命しとるか、いっぺんでも考えたことがあるんか。あん?」 「…。」 「お前が一色のことをよく思ってなかったのは分かる。事実お前はいろいろ一色に意見した。…ほやけど今までにあいつがお前に何か…

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