2019年11月28日

43,12月21日 月曜日 8時15分 熨子山連続殺人事件捜査本部



昨日開設されたこの捜査本部には捜査員が始終詰めている状況だった。
松永は捜査本部に入ってからというもの、一睡もしていない。流石に彼の顔に疲労がにじみ出てきていた。
犯人の確保を最優先した検問体制を取るも、めぼしい情報は松永の元には入ってきていなかった。
そんな中、一人の捜査員が気にかかる箇所があるとして、熨子山の検問状況報告書を持って松永と向き合った。

「どうした。」
「昨日の熨子山ですが、一点だけ気になる箇所があるのです。」
「言ってみろ。」

捜査員は資料を松永の前に広げた。そこには熨子山の検問地点を通過した人物のリストが並んでいた。

「ここです。」

捜査員はその中の一人の人物名を指した。

「村上隆二…」
「ええ、本多善幸議員の秘書です。」

疲れ眼の松永の目に鋭さが戻った。

「これがどうかしたか。」
「有力者の秘書ということで、ちょっと気にかかったのです。」
「それで。」
「私の方で現場に聞いてみたところ、富山県の高岡の方で党の会合があるということで、この道を利用したそうです。確かにこの県道熨子山線は金沢から高岡までの最短ルートでした。しかしこちらから民政党高岡支部へ何の会合があるかと聞いたところ、そのような会合は無いとのことだったのです。また、この村上という男は高岡支部へ顔を出していません。」

松永はリストに書かれている検問時刻を見た。

「昨日の11時50分か…。」
「理事官が山狩りを指示され、13時半から16時半までの3時間は熨子山線は封鎖されています。その後、県境を中心に検問体制の再編成を指示したのが16時50分。仮にこの村上が本当に高岡方面へ行ったとするならば、距離的に考えてその帰路で再び検問に引っかかるはずです。ですが現在のところ村上隆二という名前は確認できていません。」
「まぁ警察の対応が面倒くさくて適当なことを言う奴もいるからな。こいつもそのクチかも知れん。それに往路と復路は必ずしも同じとは限らないし、単純にこの男がまだ金沢に戻っていないのかもしれない。」
「理事官。この男のことですが私に調べさせていただけませんか。」
「調べてどうする。」
「無駄足かもしれませんが、現状一色に関する手がかりが入ってこない以上、気になることを1つずつ潰していきたいんです。」

捜査員のこの言葉に松永の表情は一変した。

「俺は無駄足とわかっていることを承認するほど馬鹿じゃねぇ。」

捜査一課の片倉然り、無差別殺人を推測した捜査員然り、松永に意見するものは酷い仕打ちが待っている。自分も同じ仕打ちをされるかもしれない。だが事件発生から24時間以上経過するも、被疑者逃亡に関する情報が捜査本部に一切もたらされていない現状を少しでも打破するために、この捜査員は覚悟を決めた。

「無駄足かどうかはまだ決まっていません。民政党石川県支部に聞くところ、村上隆二は20日の夜に本多善幸の国土建設大臣就任記念式典に同席しています。つまりこの男は金沢に既に帰ってきています。」

松永は捜査員の目を見つめた。そしてそっと口を開く。

「お前、名前は。」
「北署の岡田です。」
「現場か…。」

松永は苦虫を噛み潰したようなような表情で岡田を見る。

「どうやってこの検問状況リストを入手した。」
「熨子山の警備から入手しました。」
「規定違反だ。また現場の暴走か。」
「いいえ、情報の共有化です。」

ああ言えばこう言う。そう思ったが松永はそれを言葉に出さなかった。

「いいだろう。岡田。」

意外な松永の応えに岡田は肩の力を抜いた。

「しかし条件がある。」

松永は捜査本部を見渡した。松永が引き連れてきた捜査スタッフがパソコンに向き合って資料を作成したり、現場から上がってきた報告を取りまとめていた。各々自分が与えられた任務に全神経を集中させている。松永は捜査員たちがこちらの方を見ていないことを確認し、岡田に自分の横に来るように手で指示した。

「今後お前は俺の前に姿を現すな。」

そう言って岡田に一枚の小さな紙切れをこっそりと渡した。

「そこにお前が入手した情報はすべて送れ。どうしても俺と話をしなければならんようだったら、先にメールで俺の指示を仰げ。極秘だということを肝に銘じろ。」

岡田は松永のメールアドレスが記載されたその小さな紙を握りしめた。
瞬間、松永は岡田の首元を掴んで自分の顔に引き寄せ、急変させた。

「てめぇ、ノンキャリの分際で知った口聞くんじゃねぇよ。あん?」
「あ、あの…。」
「ここの捜査員はどいつもこいつも反抗的だなぁ。」

そのまま松永は岡田の首元を掴んで引きずり、彼の背中を壁に叩きつけて凄まじい形相で岡田を睨みつけた。

「何度言ったら分かるんだ!!お前らは機械だといっただろう!!俺にくだらんことを話しかけんじゃねぇ!!」

松永の激昂ぶりを目の当たりにした捜査本部のスタッフたちは静まり返った。捜査員たちは岡田に詰め寄っている松永の背中を見た。

「穴山と井上がなぜ熨子山に行ったか、どうやって行ったのかそんな報告もままならんというのに、糞にもならんことを意見すんじゃねぇ!!」

松永の豹変ぶりに圧倒され混乱していた岡田だったが、自分の目の前にある松永の表情を見て事を悟った。松永の表情は言葉と裏腹に冷静そのものだった。

「悪く思うな。少しだけ付き合え。」

松永は岡田にしか聞こえない程度の声で呟くと、そのまま岡田を床に叩きつけた。そして渾身の力を込めた一発の蹴りを入れる。

「ぐはっ。」

岡田は思わず身をよじって声を出した。

「ったく…クズばっかりだよ現場は。お前の顔も見たくない。さっさとここから消えろ。」

這いつくばって身動きが取れないようだった岡田を捜査スタッフが起こし上げた。松永の一蹴がよほど強烈だったのか、彼の足元はふらついていた。

「消えろっていってるだろ。」

松永のふてぶてしい物言いを横目に、岡田は体を引きずるようにそのまま捜査本部を後にした。

「おい、お前ら何見てんだ。手ェ止めんじゃねぇよ。さっさと情報を寄こせ。よこせって言ってんだろ!!それでもお前ら察庁か!!」

この叱責に松永に同行してきた察庁スタッフは無言のまま視線を落とした。

「お前らが捜査の脳みそだ。お前らが機能しないことには体は動かない。井上と穴山の情報すらまだ俺のところに上がってこない。どうなってるんだ。少しは自分にプレッシャーをかけたらどうなんだ。今のままじゃ捜査本部は脳死状態だ。」

松永は部屋にかけてる時計を見た。時刻は8時30分だった。

「よし、今日の正午迄に穴山と井上の情報を俺に上げろ。そのための指示を現場に出せ。もちろん県境の警戒態勢を解くことなくだ。」
「はっ。」
「さて、俺は少し休むことにする。」

そう言って部屋の片隅に畳んであったコートを手にとって、松永はそれを羽織った。

「関。」
「はっ。」
「ここは一旦お前に預ける。何かあれば俺に連絡しろ。正午には戻る。」
「かしこまりました。」

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2019年11月21日

42,12月21日 月曜日 7時45分 金沢銀行金沢駅前支店



支店長の山県を前にして、20名いる行員が二列横隊で並んでいる。支店長代理の佐竹はその中央に居た。
山県は先週の総括、そして今週の動きについて自分の考えを述べる。彼の話は簡潔だった。
今期の金沢駅前支店の預貸金の実績は順調だ。今後はその中身、すなわち不良な債権を処理するべく行動をして行って欲しいとのことだ。そして土曜日に結婚をした服部を指名し、職員を前に簡単なスピーチをさせた。軽くジョークを挟んだ内容に、週明け月曜日の駅前支店の重たい雰囲気は和んだ。
結びに山県は熨子山連続殺人事件を引き合いに出して、年末であるため、銀行としても特別警戒体制をとって万が一に備えよと指示を出し、朝礼は終了した。

「次長、代理ちょっと。」

話し終えた山県が佐竹と次長の橘に向かって手招きをした。山県と二人はそのまま店の奥にある応接室へ入った。

「土曜日はご苦労さん。」

応接室のソファに深く腰をかけ、山県は煙草に火をつけた。

「支店長もお疲れ様でした。」

次長の橘はそういって山県に続くように煙草をくわえた。佐竹は橘の横に座って二人のやり取りを聞くスタンスを取った。
金沢銀行は全店禁煙である。しかし応接室だけは違う。客をもてなすという位置づけで九谷焼の灰皿が配されていた。
ヘビースモーカーである山県にとってはお堅い仕事場の唯一の心の拠り所でもあった。無論この応接室での喫煙が職員全員に許されている訳ではない。山県と一緒にこの部屋に入るときだけに許される行為だった。金沢駅前支店独自の山県ルールである。

「あのなぁ、マルホン建設の融資稟議やが…」
「あぁ23日実行予定の1億円の手貸ですか。」
「あれは駄目や。」
「は?」

橘と佐竹は驚きのあまり言葉を失った。マルホン建設工業は今回国土建設大臣に就任した本多善幸と金沢銀行専務取締役の本多慶喜の実家でもある。善幸が大臣に就任することで、今後の公共事業に関する受注が伸びる見込みがあるとされる得意先である。

「すいません。支店長。おっしゃる意味がよくわかりませんが。」
「駄目なもんは駄目や。判子押せん。」
「ちょっと待ってください支店長。唐突すぎます。」
「何が。」
「ちょっと待ってください。支店長に稟議を出したのは2日前ですよ。まさか、まだ手元にあるんじゃないでしょうね。」
「あぁ俺の引き出しの中にあるわ。」

橘の顔は青ざめた。

「どうするんですか!!支店長!!。」
「だから、判子押せんって。」
「ふざけないでくださいよ。」
「ふざけるなって…。俺はあそこの経営改善をちゃんとさせぇって言っとらんかったか。」
「言ってはいましたけど…。」
「あのなぁ麻薬中毒の患者に麻薬打ち続けとっても、いづれ死ぬだけや。しかも綺麗な死に方じゃない。人を巻き添えにすることもある。」

マルホン建設の財務状況は芳しくない。現状は要注意先。といっても貸出条件緩和債権がある時点で要管理先である。経営改善計画書の提出はされてはいるが、その進捗度合は全くと言っていいほど芳しくない。

「支店長のお気持ちはよくわかります。ですが、専務の実家でもありますよ。」
「もう、その手の言い訳は聞かん。」
「ですが、支店長の一存でそんな勝手なことができるはずもありません。私も今から本部に行って決裁を貰ってこなければなりません。いつものことじゃないですか。」
「次長、あんた本当にこんなんでいいと思っとるんか。」
「…。何がです…。」

紫煙を吐きながら山県は落ち着いた声で言った。

「お前、公共工事がこれから伸びると思うのか。」
「…いえ、ですが無くなりはしません。」
「お前なら追加融資したいか。」
「したくはありませんが…。」

言葉に詰まった橘を見て、山県は佐竹の方を見た。

「代理、お前はどうや。」

融資の稟議を実際書いたのは佐竹だった。その校正をマルホン建設の前担当者であった橘が行い、それに判子を押した。そのため唐突な山県の決定とそれに狼狽する橘を目の当たりに見て動揺していた佐竹は、不意を打つ質問に答えるのに時間がかかった。

「…いえ。」
「そうやろうな。普通の人間なら変だと思う。それなら稟議なんか描くべきじゃないな。」
「しかし支店長。唐突すぎます。」
「債権の利子分を回収するために、さらに貸出先に融資の上積みをする。経営改善計画書を出しはしたが、その中身が全く実行されとらん。相変わらずの公共事業頼り。素人の目から見てもおかしいと思われることを、世の中の金融機関はバブル期から平気で行ってきた。自行の目先の利益確保を最優先にする現状の融資体制には問題がある。目先の損得で判断する時代は終わったんや。」

正論だ。だがこの切羽詰まった状況で唱えることではない。そう橘は山県に言った。

「あのなぁ、次長。小さな勢力が巨大な勢力に挑むときに有効な手立てって知っとるか。」
「支店長、話をそらされては困ります。一刻も早く本部に掛け合ってこの融資を実行しないと、マルホン建設は飛びます。」
「奇襲や。」

このセリフに橘と佐竹は固まった。山県は確信的な表情をしていた。

「しかし、支店長…。確かに私も今までの矛盾を抱えた銀行業務には疑問をもつ身です。ですから支店長の意見には賛成です。ですが、ことは急を要します。それにマルホン建設の債務者区分やその中身に関して金融庁から一度も指摘されたことはありませんよ。」
「たしかに役人は何にも言わなかったな。何でやろうな。不思議なもんや。」

山県は金融庁を皮肉った。

「役員は承認しているんですか。」

再び煙草の火をつけて山県は言った。

「いや、まだや。」

佐竹も橘も驚きを隠せない。要管理先の債権を支店長という身分の人間が独断で決済することは許されない。役員の承認が必ず必要である。

「支店長、首が吹っ飛びますよ。」

橘は半ば呆れた表情で山県に言った。佐竹も橘と同意見だった。
応接室がノックされ女性行員がその扉を開いた。

「支店長。融資部からお電話です。」

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2019年11月14日

41,12月20日 日曜日 21時12分 中華料理 談我



金沢のオフィス街南町。その裏通りから一本横に逸れた場所に談我はあった。
このあたりは金沢の金融機関が軒を並べており、談我はこれらの業界関係者の御用達となっていた。
創業20年。外観は古ぼけたよくある近所の中華料理屋の体であるが、その客足は途絶えたことはない。
日中はこの南町を本拠とし、金融機関たちは鎬を削る競争を繰り広げている。

しかしそれは食を楽しみ、酒を飲む場である談我においては関係がなくなる。
背広という戦闘服を纏った男達が日中の気忙しさから解放され、身も心も開放的になり同業同士の情報交換を行う場所として談我は利用されていた。
しかし今日は日曜日。金融関係者の姿は見受けられなかった。

「マスター、もう一本もらえる。」

店のカウンター席に座り店主と向い合って、銚子の首の部分を指でつまんで、ぶらぶらとさせている男がいた。

「村上さん、どうしたんですか。」
「あん?」
「そんなに飲める口でしたっけ?」

そう言いながらも店主は熱燗の準備をしている。

「あのねぇ…俺だって飲まなきゃやってられんのよ…。」
「大丈夫ですか。ろれつが回ってないですよ。」
「ああ、そう。」

ここの名物である餃子に箸をつけて村上はそれを頬張った。

「はい熱燗。」
「ったくよぉ。なんだってんだよぉ。外野がぐちゃぐちゃ言ってんじゃねーよ。」
「仕事のことですか。」
「マスターには関係ない。あんたは立派だ。20年もこの店を切り盛りしとる。」
「村上さんも頑張ってるじゃないですか。」
「頑張っていても報われないことがあるんだなぁー。これが…。」
「なんですか、きっと報われますよ。」
「…たぶん報われないよ…。」
「どうしたんですか。村上さん。しっかりしてくださいよ。」

店主のかけた声に村上は反応を示さなかった。しばらく無言になりゆっくりと口を開いた。

「マスター。あんた自分の仕事のために友人を犠牲にしたことある?」
「えっ。」
「自分がやりたいことがある。でもそのためには友人の出世を阻む必要がある。そんな状況に追い込まれたら、マスターはどうする。」

さっきまで酔いつぶれた風の村上だったが、このときは思いつめた表情だった。そんな村上を見て、店主は言葉を選んだ。

「友情か欲望か…それって天秤に測ることじゃないような気がするなぁ。」
「何、それ。」
「村上さん、やりたいことがあるんでしょ。それって何かわからんけど世の中のためになることなん。」
「…おれはそう思っとる。」
「今すぐどうこうなるものじゃないかもしれない。でも、将来的に世の中のためになるって思っとるん。」
「ああ。」
「じゃあ、自分の思っている方面で突き進んだほうがいいと思うよ。最終的に世のためになるんなら。だって村上さん、あんたの人生でしょ。」

あんたの人生。いつから人生というものは所有するものになったのだろうか。
他人様のための人生。自分のための人生。自分はひとりでは生きて行くことはできない。自分の物だと思っている人生も、実のところ他者によって形成されているという側面を持つ。

「じゃあ友情はどうなるん、マスター。」
「相手に黙って、こそこそするからダメなんじゃあ無いのかなぁ。なんて言うのかな、こうちゃんと向きあって、俺はこう思っている、君はどう思うって。」
「いやぁ、なかなか面と向かって言えないよ。」
「そうかなぁ。でもそういう本音の部分を話せるの間柄って言うのが、友達の良い部分じゃないのかなぁ。」

こむずかしいことは言わない。単純な意見だがスッと胸に落ちてくるものがある。創業20年の中華料理店を一代で築き、人生の機微を知っているからこそ出てくる自然な言葉なのかも知れない。

「まぁ、ちょっと考えるよ。」

そう言って村上は手酌酒をくいっと飲んだ。
ふと、自分の後ろ側のボックス席に陣取っている3人組の会話を耳にした。

「そうねんて、こんなクソ寒いんげんにサングラスかけとったんや。なんも喋らんと、こっちから聞いたことには、はいとかいいえとかしか言わんかったんや。あんなもんなんかなぁ、都会の人間っちゅうのは。」

「第一さぁ、熨子町までタクシーって不自然だよな。あんなところにタクシーで行く奴っているもんかなぁ。」

盃を傾けている村上の動きが止まった。

「マスター。あの後ろで話している人、どういう人達?」
「あぁ、北陸タクシーの人。ときどきウチ使ってもらってる。」
「ふうん…。」
「まぁ居らん事ないやろ。あのあたりは交通の便も悪いし、バスとかも通ってない。あそこに行こうと思えばタクシーか自家用車しかないからな。」
「でもノリさん。あの辺りって会社とかもないよね。」
「そうや。」
「しかも送ったのは夜の七時頃。変だよねぇ。」
「ほんなこと言うけど、熨子町やって人住んどるんやぞ。たまたま実家に返ってきた奴かもしれんがいや。」
「とにかく明日は警察で事情聴取やな。ノリさん。はははは…。」
「やめて下さい。はははは。」

後ろの席で笑い声が起こった。村上はその楽しげな声を背に酒も途中のまま、物憂げな表情で五千円札を一枚カウンターに置いた。

「あれっ、村上さん。お帰りですか。」
「あぁ明日も早いから今日はこれで帰るよ。」

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2019年11月07日

40,12月20日 日曜日 19時32分 古田宅



古田と片倉は今後の捜査について綿密に打ち合わせをしていた。

一色の高校時代の交友関係を当たるためには、彼らの情報を仕入れねばならない。県警に戻ってそれらを一旦整理したいが、自分たちがこそこそと水面下で動いていることが松永たちに露見すると、厄介なことになる。今日は自分たちの頭の中を整理することとし、明日の日勤時にさりげなくそれらの情報を取得することにした。


「しっかし、なんでまたこんな事件が起こるんや。」

片倉はごろりと畳の上に転がった。

「ほやからあいつは好かんかったんや。ウチを引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、このありさまや。ほんとにキャリアってのは好かんわ。松永も一色も同類や。」
「片倉ァ。ほんなこと今さら言うなや。」
「だから俺はさっさとこの仕事辞めたかったんや。なんか大きな災厄が降りかかってくる気がしたんや。」
「だら。」
「あん?」
「だらやお前。いつからそんな腐った男になったんや。」
「なんやて。」
「いくらでも言ってやるわ。お前、いま県警が置かれとる立場わかっとらんげんろ。前代未聞の信用失墜や。そんなお家の一大事のときに、捜査の最前線の陣頭指揮を執るべき人間が、間違ってもそんなこと口にするんじゃねぇわいや。お前がなんで今捜査一課の課長を拝命しとるか、いっぺんでも考えたことがあるんか。あん?」
「…。」
「お前が一色のことをよく思ってなかったのは分かる。事実お前はいろいろ一色に意見した。…ほやけど今までにあいつがお前に何かの報復措置をしたことがあるか?ねぇやろ。」
「…。」
「キャリアっちゅうやつはプライドが高い奴が多い。ほらほうや。難関試験をパスしてきたエリート達やからな。そんな奴らから見たらワシらなんかカスみたいなもんや。汚れ役とか地道な作業は現場。自分は指示するだけ。しかも机の上で考えた頭でっかちの指示や。ほんでワシらが抑えた手柄は全部自分のもの。現場を踏み台に出世や。そのくせ何かトラブルがあれば現場の責任。ワシも二課でいろんな頭でっかち連中相手にやりとりしとったから、そんなことぐらい分かるわ。けど、あいつは他の連中とはちょっと違っとった。」
「…なにがや。」
「考えても見いや。あいつは現場主義や。単独行動もいっぱいあった。ほやけどそのトラブルを現場の連中に押し付けたことなんかあったか?あいつはあいつなりに責任を取っとったわ。ほやからずーっとここの県警勤務なんや。」

まるで容疑者である一色を庇うかのような発言に不快感を抱いた片倉であったが、古田の言うことは一理ある。
確かに自分の意見を取り合ってくれないことばかりだったが、それが為の不利益を被ることはなかった。厳命を発することはしたが、自分を捜査から外すといったことは一度もない。それを考えると松永と同列に論じるのは適切ではない。

「んー…トシさん、悪かった。おれが間違っとった。」

天井を見ていた片倉は身を起こして、古田と向い合って頭を下げた。

「すまん。」
「…気にすんな。長い付き合いやろぅ片倉。」
「しかしだ…。そんなできた男が今回の連続殺人事件を起こしたとは…。考えれば考えるほど納得がいかんくなる。」
「片倉ァ。それはワシも同じや。まぁとにかく逮捕あってのことや。そんためには本庁様の働き振りに期待をするとして、ワシらはとにかく別の方面から手がかりを掴むことに専念するとしまいか。」
「あぁ。」

片倉の携帯電話が鳴った。発信者名は朝倉忠敏であった。
古田は片倉に電話にでるよう、手で合図した。

「はい片倉です。…ええ。大丈夫ですが…。えっ!?なんでですか。…ええ、います。分かりました、いまからそちらに行きます。」
「どうした。」

電話を切った片倉に古田は言った。

「特捜からお呼び出しや。」
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