55,12月21日 月曜日 11時30分 県警本部捜査一課

55.mp3 携帯電話の音がなった。胸元にしまってあるそれを取り出して、片倉は画面に表示される発信者の名前を見た。そこには古田登志夫の名前があった。 「おうトシさん。」 「片倉。なんやら次から次とどえらいもんが出てきたぞ。」 「そうか。ちょっと待ってくれ。」 そう言うと傍らの職員にしばらく離席する旨を伝え、彼は捜査一課から喫煙室へと移動を始めた。熨子山連続殺人事件の捜査本部は北署に設置されているが、県警本部との連携をとるために、ここにも連絡室なるものが設置されている。そのため県警本部全体もいつもより慌ただしく殺気立った雰囲気が充満していた。足早に歩く私服警官。県境を中心とした徹底した検問体制を敷く警備部。皆余裕が無い様子だ。 「で、どうした。」 「赤松と接触したんやが、あいつの父親が6年前に事故で死んどる。」 「で。」 「その事故がコロシじゃないかと一色がこっそり捜査をしとったようなんや。」 「おいおい待てよ。トシさん。また訳が分からんくなる情報やな。」 喫煙室の目の前に来た片倉だったが、そこで踵を返して別の方向に向かった。 「まぁ黙って聞け。お前、今どこに居る。」 「県警本部や。」 「そりゃあありがたい。片倉、ちょっくらそのまま交通安全部の資料室で当時の事故の調書見てくれんか。」 「そう言うやろうと思って、いまそこに向かっとる。」 「お前、天才やな。」 「まあな。で、どうなんや。」 「当時の一色が言うには、ブレーキひとつ踏まんと崖から転…

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54,12月21日 月曜日 11時12分 金沢銀行金沢駅前支店

54.mp3 事業所融資の稟議書をパソコンに向かって作成していた佐竹は行内にある時計に目をやった。時刻は11時を回っていた。目、肩、腰に疲労を覚え始めていた彼はいったん手を止めて、両腕を天井に向けておもいっきり体を伸ばした。その時、自席の後方に位置する支店長席を見ると山県の姿は確認できなかった。彼は朝から店を出たきりだ。連絡も何もない。 「支店長まだ帰ってこんな。」 自分の隣に席がある橘がつぶやいた。 「そうですね…。あれから次長に連絡ありましたか。」 「いや、何にも。」 「融資部からは?」 「それもない。」 「…それにしても、なんでこのタイミングでこんな派手なことするんですかね。支店長は。」 「ほんなもん分かっかいや。」 窓口業務につきものの検印を押しながら橘は佐竹の問いかけを適度にあしらった。 「…でもな、支店長言っとったがいや。」 「はい?」 「奇襲って。」 「ああ、そんなこと言ってましたね。小さな勢力が大きな勢力に立ち向かうときに有効な手立てって。」 「そんな攻撃誰に向けてすれんて…。そこら辺ちょっと考えてみてみぃや。ああ、高橋さん。この改印届けオッケーね。」 「え…あんまり考えたくないんですが…権力闘争とかってやつですか。」 橘は苦笑いし佐竹を見る。 「それやろうな。」 「…まじですか。」 「マジ。代理、あたりを見回してみぃや。」 佐竹は素直に店内の周囲を見回した。店の一番奥に支店長席。その前に自分と次長。その…

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53,12月21日 月曜日 10時22分 熨子山連続殺人事件捜査本部

53.mp3 「そうですか。その小西とかという目撃者の話によると、穴山と井上は18時の段階ですでに一緒にいたってことですね。」 部屋の一角に設けられた会議スペース。大きなテーブルに様々な資料が雑多に置かれ、その中心に位置する席は主である松永が外出中であるため空席であった。関はその空いた席の横に座り、捜査員から上がってきた情報の取捨選択に暇がなかった。 「目撃された田上から現場までどれくらいの時間がかかるんですか。」 「30分から40分といったところでしょうか。」 「ならば事件発生時刻までの空白の時間が生じる訳ですね。」 関は捜査本部に掲示されている金沢市の地図を眺めた。 「どうですか。熨子山までに彼らが時間を潰しそうな施設などは、この辺りにあるんでしょうか。」 「田上周辺には国立や私立の大学があることから、それなりに商業施設はあります。なので彼らがしばらくこの辺りに滞在していても何ら不自然なことはありません。」 捜査員の一人が関に答えた。 「よし。田上地区のめぼしい商業施設の防犯カメラを調べてください。聞き込みもやりましょう。彼らがなぜ一色に殺されなければならなかったのか、何かの手がかりになるかもしれない。」 「はっ。」 関の指示を受けて捜査員は駆け足で本部をあとにした。 「ほかに穴山と井上に関する情報はないですか。」 別の捜査員が手を挙げた。 「穴山と井上の共通の知人にコンタクトをとりました。」 「どうぞ。」 「あいつ…

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