54,12月21日 月曜日 11時12分 金沢銀行金沢駅前支店

54.mp3 事業所融資の稟議書をパソコンに向かって作成していた佐竹は行内にある時計に目をやった。時刻は11時を回っていた。目、肩、腰に疲労を覚え始めていた彼はいったん手を止めて、両腕を天井に向けておもいっきり体を伸ばした。その時、自席の後方に位置する支店長席を見ると山県の姿は確認できなかった。彼は朝から店を出たきりだ。連絡も何もない。 「支店長まだ帰ってこんな。」 自分の隣に席がある橘がつぶやいた。 「そうですね…。あれから次長に連絡ありましたか。」 「いや、何にも。」 「融資部からは?」 「それもない。」 「…それにしても、なんでこのタイミングでこんな派手なことするんですかね。支店長は。」 「ほんなもん分かっかいや。」 窓口業務につきものの検印を押しながら橘は佐竹の問いかけを適度にあしらった。 「…でもな、支店長言っとったがいや。」 「はい?」 「奇襲って。」 「ああ、そんなこと言ってましたね。小さな勢力が大きな勢力に立ち向かうときに有効な手立てって。」 「そんな攻撃誰に向けてすれんて…。そこら辺ちょっと考えてみてみぃや。ああ、高橋さん。この改印届けオッケーね。」 「え…あんまり考えたくないんですが…権力闘争とかってやつですか。」 橘は苦笑いし佐竹を見る。 「それやろうな。」 「…まじですか。」 「マジ。代理、あたりを見回してみぃや。」 佐竹は素直に店内の周囲を見回した。店の一番奥に支店長席。その前に自分と次長。その…

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