60,12月21日 月曜日 13時22分 フラワーショップアサフス

60.mp3 店の奥にある畳敷きの文子の部屋で古田と片倉は彼女と向かい合っていた。 「当時のことは剛志さんからお聞きしました。」 「そうですか。」 「単刀直入にお聞きします。文子さん。あなたは500万の口止め料を貰いましたね。それは誰からのものですか。」 「剛志から聞いたでしょう。コンドウサトミという人です。」 「いえ、私がお聞きしたいのはあなたが口止め料を振り込むようにと依頼した人です。コンドウサトミさんではありません。」 文子は古田の言葉に黙ってしまった。 「忠志さんは口止め料の受け取りを拒んだ。しかしあなたは旦那さんに内緒で口止めを依頼する人間と接触した。だから500万が口座に入金されたんですよね。」 文子は問いかける片倉と目を合わさない。その様子を古田は片倉のそばで観察した。 「あなたが接触した人間は誰ですか。」 文子は黙ったままだ。 「文子さん。我々はあなたが口止め料を貰ったから、罪に問われるとか言ってる訳じゃないんです。ただ、当時の本当のことを知りたいだけなんです。」 この片倉の台詞にはっとした文子は、塞いでいた表情から一転して片倉の目を正面から見ることとなった。 「…あの人も同じことを言っていました。」 「あの人?あの人って誰ですか。」 「一色くん…です…。」 文子は瞳に涙を浮かべていた。片倉と古田はお互い顔を見て頷いた。そして片倉が続けて質問をする。 「文子さん。その一色と同じように我々にも教えていただけませんか。」 「刑事さん。」 そう…

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59,12月21日 月曜日 13時15分 金沢銀行本店 役員会議室

59.mp3 金沢の南町に居を構える金沢銀行。大正期に当時の著名な建築家の手によって建てられた石造りの重厚な外観は権威的でもあり、その中も当時の面影を色濃く残した作りとなっている。10メートルほどの高さを持った一階営業店フロアは圧巻であり、中でもその背後の中央から左右に別れるように広がる階段は翼を広げた鷹を彷彿させ、来店する皆を圧倒する迫力を持っていた。金と権力が集まる石川県の第一地銀金沢銀行の中枢には、この階段を登って行かねばならない。赤絨毯が敷かれた階段の先には役員と関係者のみが出入りを許される、役員会議室と頭取室があった。 「では小堀部長続けてお願いします。」 会の進行は総務部の担当である。総務部長は上座窓側に立って資料に目を落としながら議事を進めた。Uの字を思い起こして欲しい。この文字の底辺となる場所に頭取は座る。その両サイドの直線となったところの最も底辺に近い位置に専務取締役の本多慶喜。常務取締役の加賀京三が向かい合って座り、それから順に取締役達が並んでいる。これらの男どもが、口を真横一文字に噤んで権威的な建造物が作り出すこの重厚な空間に負けじと踏ん反り返っている様は、第三者がみると滑稽に映るかもしれなかった。 「マルホン建設に関して、今般一億の手貸の承認を求める稟議が金沢駅前支店より上がっています。」 融資部から検討用の稟議の写しが会議室の全役員に配布された。資料がひと通り全役員に行き渡ったあたりで役員たちがざわざわと騒ぎ始めた。本多はそれを鎮めるように役…

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58,12月21日 月曜日 12時45分 河北潟周辺

58.mp3 「何だって?お前はその刑事にそんなこと言ったのか。」 「ああ。」 「まったく何てことしてくれたんだ。」 「なんだよ。聞かれたことをその通り話して何が悪いんだ。」 「あのなぁ。俺はお前とは連絡とって無いって言ってしまったんだぞ。あぁ辻褄が合わなくなってるじくるじゃないか。」 「はぁ?なんでそんな嘘をつく必要があるんだよ。」 「いや…。」 確かに佐竹のいう通りだ。村上は佐竹に余計な面倒をかけたくないとの気持ちから片倉に嘘の答弁をした。警察から事情を聴取されたという佐竹からの連絡もなく、おそらく自分が最初の聴取対象であろうと踏んだのが間違いだった。まさか別の者が同じような時間帯に佐竹を聴取していようなどとは村上は想定していなかった。物理的に離れた環境にいる他者の気持ちを以心伝心で組めるほどの卓越した能力を持っている人物などいる訳もなく、村上は自分の軽率な言動を後悔した。 「他に何か聞かれなかったのか。」 「いや、俺は俺で年末のゴタゴタで忙しいから今日の晩にもう一回出直してくれって言っといた。」 「そうか。」 「なぁ、なんでお前そんな嘘ついたんだ。」 「いいだろお前には関係ない。」 「関係ないってなんだよ。おまえこそ変にあいつらに勘ぐられることになるぞ。」 ここで村上は昨晩談我での店主とのやり取りを思い出した。 「相手に黙って、こそこそするからダメなんじゃあ無いのかなぁ。なんて言うのかな、こうちゃんと向きあって、俺はこう思っている、君はどう思うって。…

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57,12月21日 月曜日 12時24分 金沢銀行金沢駅前支店

57.mp3 人気が少なくなったロビーの雑誌類を整理していた佐竹は、店内に設置されたデジタルサイネージに目をやって今の時刻を確認した。 そろそろ休憩をとっても良い時間だ。一足先に休憩に入っている橘はもうしばらくすればここに戻ってくる。彼の帰りを確認して自分も休憩をとろう。そう思いながら佐竹はひと通り店内を見回した。彼が店内奥の職員通用口に目をやった時に、その扉は開かれた。 「支店長。」 山県は羽織っていたコートを脱いで、そばにあるコートハンガーにそれを掛けた。支店長の決裁を求める稟議書がうず高く積まれた自席に目をやってため息を付いた彼は、立ったままデスクの引き出しに手をかけた。 ーさぁどうする。 引き出しの中を確認した山県は店内を見回した。そこでロビーに立っている佐竹と目があった。山県の目つきは鋭く、5m先にいる佐竹は固まってしまった。そこに休憩を終えて外から帰ってきた橘がタイミングよく通用口から店内に入ってきた。橘は山県の車が駐車場に止まっていることから、彼が帰ってきたことを知ったのだろう。店内に入るやいなや支店長席の方へ駆け寄った。橘の動きを見て佐竹は同じく支店長の側へ駆け寄った。 「次長も代理もそろって何や。」 「融資部からの再三の催促で支店長には無断で稟議を本部へ送りました。」 橘が支店長不在時の事の顛末を報告した。 「これみれば分かるわ。」 そう言うと山県は自席の引き出しを開けてその中を二人に見せた。 「すいません。」 「…

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