2019年06月06日

17,12月20日 日曜日 11時25分 喫茶「ドミノ」



一時期金沢にはカフェと呼ばれる社交場が乱立した。
この手の店は、ぶらりと気軽に立ち寄れる場所はあまり多くない。洒落てこぎれいな雰囲気のものが多く、選ばれし意識の高い人種であることが条件として課せられる。

その中においてひとりでくつろげて、誰かを待つのに持ってこいであるのはやはり純喫茶だ。
客層の嗜好をしっかりと捉えた新聞や雑誌、マンガ等が豊富であり、それなりの年齢の世代が集う。店で交わされる会話も良い。何より自分だけの世界を作れることが純喫茶の魅力でもある。

アサフスから犀川を渡った旭町の純喫茶「ドミノ」に佐竹はいた。
店主以外誰もいない店の中で、彼は一番奥のテーブル席に座り雑誌に目を落としていた。

店の外で車のドアが閉められる音が聞こえた。
それから20秒後にドアが開かれ赤松が店内に入ってきた。

赤松はカウンターに立つ店主にコーヒーを注文し、そのまま佐竹の正面に座った。
すぐに店員がおしぼりと水を持ってきた。赤松は湯気の出るそれで手を拭き、続いてしっかりと顔を拭いた。

「あのさ、お前どう思う。」

佐竹は切り出した。
顔を拭いていたおしぼりを丁寧にたたんで赤松はうつむいたまま答えた。

「ふぅ…信じられんよ…。本当に。」

赤松は「それに」と付け加えて話し続けた。

「今、報道されとる被害者の女の子おるやろ。」
「おう。」
「あの子実は昔ウチでバイトしとった女の子ねんわ。」
「えっ…。」
「何が何だかさっぱり分からん。俺のかみさんもショック受けてさっきから仕事が手ぇつかん状態や。」
「あの…お前の奥さん、一色とお前の繋がりを知ってんのか。」
「いや詳しくは知らん。だからまだ救われとる。もしもそんな細かいこと知ったらあいつパニックになっちまう。」

コーヒーが出され、赤松はそれに口をつけた。

「なぁ佐竹。お前はどう思ってんだ。この事件の事。」

佐竹は手に持っていた雑誌をテーブルの上に置いた。

「お前と同じだよ。信じられん。正直そういう漠然とした感想しかでてこない。」
「そうやよな…。」

二人の間にしばしの沈黙が流れた。

「なぁ赤松。お前、村上と連絡とってる?」

佐竹が切り出した。

「え?村上?」

赤松は首を振る。

「そうなんだ。」
「村上がどうした?」
「あのさ。俺、実は今でもあいつとよく連絡とってんだけどさ。」
「へぇ。そういやお前ら昔っからよくつるんどったよな。」
「ああ。」
「村上あいつ、今なにやっとらんけ。」
「政治家の秘書。」
「まじで。」
「マジ。」
「へぇ…なんかすげぇじ。」
「ああ。たしかに政治家の秘書って言うと聞こえはすげぇ。けどあいつ自身は高校の時からなんにも変わってないよ。」

そういうと佐竹は、先ほど村上とこの事件について電話でやり取りをしていた事を赤松に報告した。
今回の事件については所詮過去人間関係。だから他人事と割り切ってしまうのが得策であると。

「んであいつはどんな反応を?」
「却下。」
「却下?」
「ああ。むしろ俺が冷たいとかで一蹴された。」
「なんやそれ。」
「あいつはいったん熱くなるとどうにも止まらん。」
「ははは。ほんとに高校からなんにも変わっとらんげんな。村上のやつ。」
「言ったろ。なんにも変わっていないって。」
「で、そんな村上に感化されてなんかわからんけど、俺んところに来たってわけか。」

自分はそうは思わないのだが、結果として見れば赤松の言う通りだ。

「高校の時もだいたい何かのきっかけを作るのは村上。ほんで佐竹、お前はまずはそれにダメ出し。でも結局行動力がある村上に引っ張られて、知らんうちにその中で巻き込まれる。お前ら18年経っても変わらんな。」
「そ、そうか…。」
「まぁでも、俺はちょっと複雑。」
「そうだな…。被害者はお前のところで働いていた子だし、容疑者は昔の同級生だし…。まさかそんな状況だとは知らなかった。すまん。」
「謝んなって。別にお前が悪い訳じゃねぇやろ。あのさ、お前が村上に言ったことは一理あると思う。いやむしろ正しいと思う。いくら昔強い繋がりがあったとしても、それ以来疎遠でありゃあ昔は昔、今は今。実際俺は一色をぶっ殺したいってくらいにすら思っとった。」
「思って…いた…?」

赤松は半分に減ったコーヒーの中にフレッシュを注ぎ、それをかき混ぜた。

「ニュースに初めて触れたときは正直、初めてづくしの情報ばっかりでなんのことかよく分からんかった。一色が警察やったってことも、あいつがそこの幹部やったってことも。」
「それは俺もさ。」
「でもしばらくして、なんとなく飲み込めてきた。ほしたらなんか、あいつのことぶっ殺したくなってきた。」

言葉に熱を帯びる自分を収めるかのように、赤松はコーヒーを飲み干した。そして深呼吸をして彼はゆっくりと口を開いた。

「でもな、実は俺…去年の夏に一色と会っとれんて…。」
「え?」
「去年の梅雨の時期や。あいつウチの店に来てさ…。」

そういうと赤松は当時の事を振り返り始めた。

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posted by 闇と鮒 at 00:00| Comment(0) | ポッドキャスト | 更新情報をチェックする
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