2019年07月11日

22,12月20日 日曜日 11時48分 県道熨子山線 熨子町集落周辺



熨子山の登り口にあたる熨子町の集落周辺は、松永率いる捜査本部の指示で検問の体勢をさらに強化する事となった。1時間前には3名の警官が検問にあたっていたが、さらに補充され6名の人員が検問にあたっていた。

熨子町に唯一アクセスできる県道熨子山線は石川県と富山県を結ぶ生活道路でもある。そのため事件後もいつもどおり石川・富山の双方からの往来があった。このように交通量が多い道路を完全封鎖するのは難しい。そのため警官の補充を持って検問体制の強化を図ったのだ。

事件現場から最も近い熨子町の集落では、所轄捜査員が全軒対象の聞き込み捜査を行っていた。当時の車の通行状況や、不審な人物の目撃情報を中心に尋ね歩いていた。

さすがに山である。平野部ではちらちらと舞っていた雪も、ここではうっすらとではあるが積もりはじめていた。
検問の任にあたっている、警官たちは寒さに身をすくめながら、時々この場所を通過する車輌を止め、検査していた。

一台のSUV型の車輌が石川県側からこちらに向かって来た。警官が警棒を高らかに上げ、止まるように合図する。車輌は減速し、警官の指示通り停車した。

「おつかれさまですー。どちらにいかれるんですか。」

警官が運転手に声をかける。

「ちょっと、高岡の方に用事があって。」
「そしたら、免許証見せてもらえます。」

男は車のギアをパーキングに入れ、サイドブレーキを引き、助手席に置いてあった鞄の中からそれを取り出して警官に渡した。警官は老眼なのか、その免許証を目を細くして見た。

「…村上隆二さん。」
「はい。」
「この道はよく利用されるんですか。」
「まぁ、そうですけど。」
「お仕事は何されとります?」

警官は警戒されないように、方言丸出しで村上に接している。

「秘書です。」
「秘書?」
「ええ政治家の。」
「政治家の秘書さんですか。へぇ…。こんな天気が悪いがに高岡まで。」
「まあ。」
「その高岡まで何しに行かれるんですか。」

―いちいち面倒くせぇこと聞くな。

「党の会合です。」

警官が手を挙げて合図をすると、別の警官が二名こちらの方へやって来た。警官は免許証を村上に返した。

「そうですか。ご苦労さんです。あなたもご存知やと思うけど、ここの近くで事件あったもんで、一応この道を通る車の中を改めさせてもらっとるんです。ご協力のほどお願いします。」
「どうぞ。雪の中ご苦労様です。」
「じゃあトランク開けてもらえますかね。」

警官がそういうと、他の二人がトランクの方へ回りそれを開いた。瞬間、鼻を突くような臭いが二人を襲った。トランクの中には紙袋がいくつも積まれていた。金沢の老舗漬物屋の印刷が施されている。

「ああ、言うの忘れましたけど、トランクにはかぶら寿司が載ってますんで、臭いますよ。」

運転席側に立っている警官に村上はそう言うと、その警官は中を調べている二人の警官の方を見た。二人はこちらの方をしかめっ面で頷いている。

かぶら寿司は金沢の伝統郷土料理のひとつ。冬の日本海でとれる旬の魚、鰤を塩漬けにしたカブではさみ、人参や昆布と一緒に麹で漬け込み発酵させたものである。なれ鮨の一種とされており、カブの甘みと歯ごたえ、柔らかい鰤の食感、麹の酸味を味わう事ができる。金沢においては冬季限定で出回る高級食品でもある。麹で漬け込むため独特の臭いがし、そのためこの食品を嫌う人間もいる者も相当数いる。

ひととおりトランクの中を確認した警官が、「特に変わった容姿はありません」と報告すると、傍にいた警官が村上に尋ねた。

「もし差し支えがなかったらでいいんですけど、あなた、どなたの秘書さんなんですか。」
「本多善幸です。」
「ああ、本多先生ですか。それはそれはご苦労様です。道中気をつけてくださいね。」
「みなさんも早く犯人を捕まえてくださいよ。何か、おたくのお偉いさんらしいじゃないですか、今回の容疑者は。」
「ええ、大変ご迷惑をおかけしてます。」
「治安を司る警察幹部が連続殺人ですよ。しかもそいつは未だ拳銃をもって逃走中。」
「おっしゃるとおりです。なので十分に注意してください。」
「そちらも早いこと犯人逮捕お願いしますよ。」
「はい。全力を尽くします。」
「じゃあ。」

そういうと村上は窓を閉め、富山方面へと走り去って行った。

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posted by 闇と鮒 at 00:00| Comment(0) | ポッドキャスト | 更新情報をチェックする
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