2019年08月29日

30,12月20日 日曜日 16時50分 金沢市香林坊



石川の流行と活気の集積地である香林坊に佐竹はいた。

クリスマスという時期はだれかに何かをプレゼントする時期。ただそう言う理由だけで先ほどまで女性に人気のプレゼントについて調べていた。
ネットが教えてくれたのは彼女らがもらって嬉しいプレゼント第一位は指輪だということ。
彼氏や意中の人から貰うという前提があるのだが…。

ほんの数時間前に佐竹はアサフスで山内美紀という女性に出会った。彼はこの女性に一方的に惹かれた。
ついさっき初めて会って、ひと言言葉を交わしただけの関係。こんな関係性で貴金属類のような高価なプレゼントを渡すのは相手にとって押し付けがましく、重い。嫌われる事てきめんである。バッグや財布等といったものも同じだ。

その他に何か気の利いた良いものはないかと佐竹はこの香林坊に来たのだが、ヒントは得られなかった。

つまり佐竹にとってそういったプレゼントを渡すのは時期尚早であるという事である。
香林坊にきてようやくその事に気づいた彼は、クリスマスを控えて活気づく街を眺めながら歩いていた。

一軒の洋菓子店の前を通りがかった。古くからあるような店構えで、若年層や最近の流行に媚びる様子は見受けられない。
「洋菓子・ケーキ」と飾りっけのない丸ゴシック体のような書体をペンキかなにかで直に書いた様な看板がかけられていた。

―せっかくだからケーキでも買って帰るか。

そう思って佐竹はその洋菓子店に入った。
店には誰もいなかった。店内は外観とは違ってこぎれいであり、ショーケースの中には隙間なく整然と数種類のショートケーキとシュークリームが置かれていた。そのギャップに佐竹は少し期待をした。

―ひょっとして隠れた名店発見か。

佐竹は「すいません」とやや大きな声を出して店の者を呼び出した。
すると年老いた女性がゆっくりとした動作で店の奥から出てきた。老いてはいるが、どこか品を感じさせる女性だった。
佐竹はショーケースの中にあったショートケーキを三つ注文した。するとその老女は話しかけてきた。

「誰かにあげるんけ?」
「いや、自分ひとりで食べますけど。」
「ほうですか。お客さん甘いもん好きですか。」
「いや、そんなに食べない方ですけど、何か久しぶりに食べたくなって。」
「んなら、これおまけしときますわ。」

そういうと老女はショーケースの中にあったシュークリームを二つ取り出し、一緒に紙箱の中に入れた。

「冷蔵庫に入れといたら明日まで保ちますから、試しに食べてくださいな。」

佐竹は遠慮をして一度断ったが、好意でやってくれているサービスを無下に断るのもいかがなものかと考えたのか、すんなり頭を垂れて感謝の意を表した。
店の外に出ると、再びちらほらと雪が舞ってきていた。

ーしかし弱ったなぁ…。こんなにたくさんのケーキ、俺食えないぞ…。

自分の車が止めてある駐車場に行く道すがら、香林坊の店々からクリスマスソングが流れてくる。

ー誰かに分けるってもなぁ…。

ふと両親の姿が思い浮かんだ。佐竹は就職を機に一人暮らしを始めた。一人前に給料をもらう歳になったら、身の回りの事は自分でやれという両親の方針によるものだった。
盆暮れには一応実家に帰っているが、それ以外で両親と顔を合わせることは基本的になかった。
親には特に孝行らしいこともしていないので、意表を突く形でこれを持って行っても良いと思った。

しかし、彼の脳裏によぎるものがあった。山内美紀の存在である。
この香林坊にやって来た主たる目的はケーキを買う事ではない。彼女に渡すさりげないプレゼントを物色するために来たのだ。

―そうだ、こいつを何となく渡してみるか。

理由はどうとでもなる。先ほど赤松には花代をサービスしてもらった。そのお礼として、店のみんなで食べてくれという事ならば渡しやすい。
佐竹は両親には悪いと思いながらも、この考えは我ながら妙案だと思い、駐車場へと向かった。

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posted by 闇と鮒 at 00:00| Comment(0) | ポッドキャスト | 更新情報をチェックする
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