51,12月21日 月曜日 10時18分 本多善幸事務所前



駐車場に停めてあった自分の車に乗り込んで片倉は胸元からタバコを取り出しそれに火を着けた。
助手席側には先程まで一緒にいた岡田が座っている。
松永率いる捜査本部とは別に自分と古田が独自の捜査を行なっていることは極秘だ。
このことが露見すると松永の叱責が自分に飛んでくることはおろか、命令を出した朝倉の責任も追求されよう。
一緒に行動している古田も同様だ。片倉は村上から聴取した内容を頭の中で整理しながらタバコをふかした。

「お前、どう思う。」
「どうって言われても、正直課長が何を聞き出したかったのかわかりませんでした。」
「そうか。」

片倉は岡田にタバコを差し出した。

「吸えや。」
「いただきます。」
「お前、目の付け所がいいな。」

岡田はタバコの煙を吐き出して無言を保った。

「あいつ、何か臭う。」
「何がですか。」
「結果的に検問に一回しか引っかってないから、氷見から石川に入ったのは間違いねぇ。しかし。」
「しかし?」
「羽咋から民政党金沢支部までの時間が随分かかっとる。」
「それは私も感じました。…ただよくいるじゃないですか。広い駐車場みたいなところで車止めて死んだように寝とる営業マンとか。あいつも息抜きしたかったんじゃないですかね。」

思いっきり吸い込んだ煙を吐き出して、片倉は吸殻を捻り潰して灰皿にしまった。

「普通の状態ならわかれんて。あいつが。」
「高校の同期が容疑者だって話ですか。」
「ああ。」
「確かに…。頻繁に会っとったんに、気がついたら疎遠ってことはよくある話です。私もそういう関係の友人はいっぱいいます。結局そんな関係性しかない人間ってのは所詮他人。ほんなもんですよ。ですが村上は何か感情が高ぶる要素があった。だから熨子山へ足を伸ばした。」
「仮に羽咋から金沢までの時間の事は目をつむったとしても、交友関係はどうや。疎遠な人間の事に動揺して事件現場付近に向かうか?」
「事件の前もその後も高校時代の連中とは連絡はとっていないって言ってましたね。」
「そこがわからんげんわ…。」

片倉は再びタバコを咥えて窓から見える北陸特有のどんよりと曇った空を眺めた。大空を覆い尽くすその様子は展開の鈍い今回の事件を象徴しているようにも感じられた。

「まぁいいわ。んで、お前ら捜査は進んでるか。」

岡田は首を横に振った。

「課長。極秘なんですよ。」
「何がだよ。」
「私がここにいること自体が。」

片倉は岡田の困惑した表情を見て何かを悟ったのか、ため息をついて再び窓から外を見た。

「岡田ぁ。実は俺も今回は極秘なんだよ。」

事務所を囲うように植えられた雪吊りを施された植木たちが、おりからの強風に煽られてざわざわと音を立てた。

「ほやからここでおたくら帳場のサツカンとバッティングしてしまったことは不味いんや。」
「こっちだって片倉課長と会ってしまったことが不味いんです。」
「ほんなら一緒やな。」

片倉が笑みを浮かべてそう言うと、岡田の硬い表情が緩んだ。

「よし岡田。ここは取引せんか。」
「なんでしょう。」
「俺は本多事務所には来なかった。だからお前とも合っていないことにする。」
「それはありがたい提案です。」

岡田は思案した。松永からは極秘であると厳命されている。自分は村上隆二について調べたいとだけ松永に進言した。その方法については特段指示を受けていない。岡田にとって大事なのは自分が知りたい情報を得ることと極秘であることだけだ。片倉は極秘を誓っている。以前一緒に仕事をしてその性格などをある程度心得ている上司の片倉がそういうのだから、秘密は保持されよう。また、片倉が何を極秘に調べようとしているのかも知りたい。

「わかりました。」
「OK。ただ。」
「ただ?」
「一色と剣道部っていう関係性だけは胸に秘めておいてくれ。」
「どうしてですか。」
「お前らの最重要課題は被疑者の確保。俺はお前らとは別の角度から攻めている。捜査のベクトルが帳場とバッティングしてくるとこちらの存在意義ななくなってしまうんやわ。」

片倉には片倉の事情があるのだろう。こちらとしては村上の20日の行動履歴を抑えることができたので、当初の目的は達成だ。上司である片倉の依頼だ。無下に断ることもない。

「了解です。」
「特に鍋島惇の名前は伏せていてくれ。」
「…課長がどういった捜査をしているのか興味が有るところですが、捜査の妨げになるのでしたら口外しませんよ。」
「ははは。話がわかる部下を持てて俺は嬉しいぜ。」

価値観を共有できる存在を目の前にしてホッとしたのか、岡田は安堵の表情を浮かべた。

「なんだろうな。あいつ、何か臭うんだよ。」

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